シゲブログ ~避役的放浪記~

ありゃりゃ、みつかっちゃったぜ。全部フィクションです

#96 2017年。春から夏。

祖母が息を引き取った時、私は祖母の前に座っていた。2日前から祖母は何も言わなくなっていた。何も言わなくなったその時に私の中でおばあちゃんは死んだ。だから息をしていないから、心臓が動いていないからといって、家族が今泣いているのは少し変だなと思…

#95 鍵っ子だった

鍵っ子だった。 尼崎の駅前のマンションに住んでいた。道路が拡張されたせいで今はもう残っていないけれど、マンションの前には広い花壇があって、春になると一面にチューリップが咲いた。毎年毎年チューリップの横で従兄弟達と写真を撮った。伯母がカメラ…

#94 フットボール、米原万里、ユーゴスラビア

昔のサッカーを見ていた。09/10シーズンのヨーロッパチャンピオンズリーグ準決勝1stレグ、バルセロナ対インテル。DAZNがYouTubeに上げている動画ではアナウンサーと解説者が当時のことを振り返りながら実況をしていた。深夜、コーヒーを飲みながら課題の傍…

#93 天然な人

さっきまで教授の部屋で数人で話していた。教授と数人の学生で、お茶やクッキーを食べてこれからの進路のことや研究のこと、卒論のことを話していた。帰り道に友達が呟いた。 「天然な人ってちょっと苦手やな。その人の言動のどこまでが『本当』でどこまで…

#92 進級

進級した。ようやくだった。 夜勤だった。日付が替わった。久しぶりに大学のホームページに入った。緊張しながら「成績」のボタンを押すと、また新たなボタンが出て来た。そのボタンには「2019年度通年」と書いてある。私はこれを今からクリックする。そうす…

#91 ミシシッピイエロー

『ミシシッピイエロー』 こんなにいい日は外に出て絵でも描こう 春風が吹いた最初の日 心はどこへでもとんでゆける パレットの上親指でかきまぜる黄色い絵の具 少しの白ともっと少しの赤をまぜて 世界に一つのミシシッピイエロー かぐわしいミシシッピイエロ…

#90 詩を書こう

『詩を書こう』 こういう時だから文章を書こう そう思った それなのに言葉はあとからあとから溢れて 掬えど掬えど「本当」は掴めないまま 誰かと電話した 思いつくままこぼれ出る言葉たち 強いことば弱いことば 抱きしめたいのに目を合わせたいのに 目の前に…

#89 コーヒーを淹れてみよう

コーヒーを淹れてみよう。そう思った。時間はたっぷりあった。 先が見えない毎日。家にいないといけないのなら、できる範囲で暮らしを豊かにしようと思った。とはいっても野菜は確実に値上がりを続けている。不必要なものは買えないのでとりあえずジャガイモ…

#88 4回目の仙台

今メモ帳として使っているこのノートは実は2017年のスケジュール帳である。年始の家族旅行から始まり、農場での住み込みバイトで終わった2017年は本当にちゃらんぽらんな1年だった。精神的にとても不安定だった。多くの人に迷惑をかけてしまった。自分も落ち…

#87 拝啓宇宙人様

〈詩のコーナー〉 拝啓宇宙人様 昨日おばあちゃんが死んじゃった 35度8分の熱だった 明日棺の中骨になって いつかお墓に入るのだろう 遠くない日におじいちゃんだって 動かなくなる日が来るのだろう おなじような白い骨になって おんなじお墓に入るのだろう …

#86 映画『フィッシュマンの涙』を観た

深夜、文章を書いていた。やっと進級できたこと、昔の友達にまた会ったこと、昔住んでいた町を歩いたこと。3月には別れと時の流れを実感してしまう。つらつらと今しか書けないであろうことをノートに書いていた。 傍らにあるラップトップで音楽を流していた…

#85 海野君のこと

今とてもしんどい。 理由はたくさんある。まず第一に睡眠の問題。昨日は友達と朝まで遊んだ。フットボールとアルコール。ラーメンとカラオケ。 第二に食事。春休みだからのらりくらり一日一食。時間も栄養素も偏っている。でんぷんばかり摂っている。 第三…

#84 盆のようなもの

◎令和元年 8月18日 おじいちゃんに私の来訪は伝わってなかったらしく、彼は驚いていた。一応お盆で、だから母と3人で過ごす予定だった。そうでもしないとなかなか会えないのであった。ほどなくして母が来た。本来ならば私が前もって祖父に連絡しなければなら…

#83 地元でプール

◎令和元年 8月16日 ともの家を9時過ぎに出た。外はもう暑かった。通りを歩き出したところで、昨日オアシスで買ったチョコとカラムーチョはほとんど食べないまま出てきたことを思い出した。 12時までミスドにいた。何冊も本を持ってきていた。昨日の夜にはア…

#82 言葉とか場所とか(1)『私小説 from left to right』

「アメリカに生まれていたら楽しかっただろうな」 かつて私の友人がそんなことを言った。私は同意した。私は中学生だった。毎日がどうしようもなくつまらなかった。引っ越し先の街にも学校にもなじめなかった私は親に命じられるままに中学受験をしたのだけ…

#81 文章の中に彼らがいてくれるおかげで。——『上海ベイビー』の天天と『ライ麦』のホールデン

『上海ベイビー』を読んだ。衛慧(weihui)という人が中国人の女性が1999年に発表した小説である。現代は『上海宝貝』らしい。「宝貝」と中国語の辞書で引いたらどういう意味なのだろう。まさか「ベイビー」と出るわけではないと思うけど。気になる。 主人公…

#80 正月

正月が来るのがイヤだった。 母と祖父と三人で過ごす年の瀬はつまらないと思った。嫌でも祖母の死を実感してしまう。3人では麻雀ができない。2対2に分かれての百人一首もできない。おばあちゃんの作った田作りも栗きんとんも無い。3人でテレビを見て寝て起き…

#79 意味のないこと意味のあること

「どうしてお前は意味のないことを心配するんだ?」 高校の時に友達に言われた言葉。部活の試合の帰りでみんな疲れた顔でバスに乗っていた。ちょうど女の人が降りたあとだった。その女の人というのが問題で、彼女の腕には無数の切り傷があったのだ。どうもリ…

#78 はるかに遠い——『停電の夜に』を読んで

2018年の夏のある日、シリア出身だという人に初めて会った。彼は広島大学の大学院で建築を勉強していると言った。F市で行われたインターンシップに私たちは参加していた。インターンとは言ってもほとんど観光のようなものだった。F市にある工場や会社を巡っ…

#77 同窓会に行ったら

最寄り駅の改札を出て数歩。じーんとした。どうして涙腺がこうも緩むのだろうと思って考えた。答えは簡単だった。私にあるものと同じようなさびしさや諦めを、今日出会った何人かの中に感じたからだった。 卒業して5年。同窓会には100人近くもの人が集まっ…

#76 同窓会に行くには

同窓会が開かれるらしい。クラスだけの同窓会だと思っていたらどうやら学年の同窓会らしい。行くのか行かないのか迷っていたけど、結局私は行く。なんだかんだでこういうのは絶対に行く。そういう性格である。コミュニケーションを取るのは上手じゃないけれ…

#75 いわき。二日目

◎令和元年11月2日 朝6:00に起きた。まだ出発まで時間があった。 昨日は東京から来た高校生と一緒にラーメンを食べたあと、睡魔に負けて早めに寝た。本当はカプセルホテルのベッドで家から持ってきた『ワインズバーグ・オハイオ』を読もうと思っていたのだけ…

#74 災害ボランティアに行った

◎令和元年11月1日 優しくなりたい。ずっとそう思っていた。保育所にいる頃からすでにその思いはあって、どうやったらよい世界が作れるのか漠然と考えていた。摩天楼に突っ込んでいく飛行機も捕らえられた中東の狂信的指導者も、100人が死んだ列車事故もアス…

#73 教室

〈詩のコーナー〉 教室 教室のうしろすわり 脳みそ半分できいている ぬるぬるの雰囲気うすら寒い空調 すやすやの寝顔と誰かのしたおなら 茶髪に染めただけのあいつも スマホ片手につまんない顔してる 今日もまたそれぞれの人生がこの部屋で交差して またみん…

#72 直方市石炭記念館

◎令和元年 8月31日午後 この感じ、宮沢賢治の童話に似てるな。そう思った瞬間が人生に一度あった。中学に入った5月、オリエンテーション旅行という名の、学年の親睦を深めるような旅行があった。あんまり覚えてないけれど兵庫県の神鍋高原に行って1泊か2泊す…

#71 血と無神経

その部屋には立派な本棚があって、おおよそ私に縁はないような本が並んでいた。日本史に関わるミステリーや旧日本軍の太平洋戦争の戦記などが乱雑に並べられていた。私はそれらのタイトルに心惹かれることはなく、ざっと眺めただけで部屋を出た。こういう時…

#70 非日常発日常行

令和元年9月19日 夜行バスが八重洲口を出たのが9時50分。電灯が消えたのが22時13分。三列目の通路側に座りながら終わりつつあるこの旅行について考えていた。東京で再会した友人のこと、ソウルで食べた焼肉、釜山の博物館、慶州のお寺と古墳、全州のバス停で…

#69 旅路の空

〈詩のコーナー〉 旅路の空 旅路の空はいつもきれい 心が広くなるからか お空を見上げて考える 旅路の空はいつもきれい 故郷の空は汚いか そういうことでもあるまいが 旅路の空はいつもきれい 雲を眺めて一休み これからどこへいきましょう 旅路の空はいつも…

#68 Blue Days

〈詩のコーナー〉 Blue Days あなたはいないこのドアのむこう あなたはいないこの夜の街にも 悲しくなんかないさびしくなんかない 七夕なんて毎年雨降り シャワーのあとでコーラを飲んでる テレビつけたまま暗がりの中で 帰りに買ったバニラのアイスバー 逃…

#67 ××××!

※血と刃の描写があります。苦手な人は注意してください 最近どうにもいかない。気分が落ち込む周期にいる。ずっと後ろ向きのことを考えていて、寝ている時だけが幸せである。 昔は「死にたい」と思う度に世界の色が変わったものだけどそんなのはもう何もない…