シゲブログ ~避役的放浪記~

大学でロシア語を学んでいました。関西、箱根を経て、今は北ドイツで働いています。B2レベルのドイツ語に達するのが目標です

2020-02-01から1ヶ月間の記事一覧

#82 言葉とか場所とか(1)『私小説 from left to right』

「アメリカに生まれていたら楽しかっただろうな」 かつて私の友人がそんなことを言った。私は同意した。私は中学生だった。毎日がどうしようもなくつまらなかった。引っ越し先の街にも学校にもなじめなかった私は親に命じられるままに中学受験をしたのだけれ…

#81 文章の中に彼らがいてくれるおかげで。——『上海ベイビー』の天天と『ライ麦』のホールデン

『上海ベイビー』を読んだ。衛慧(weihui)という人が女性が1999年に発表した小説である。現代は『上海宝貝』らしい。「宝貝」と中国語の辞書で引いたらどういう意味なのだろう。まさか「ベイビー」と出るわけではないと思うけど。気になる。 主人公はココと…

#80 正月

正月が来るのがイヤだった。 母と祖父と三人で過ごす年の瀬はつまらないと思った。嫌でも祖母の死を実感してしまう。3人では麻雀ができない。2対2に分かれての百人一首もできない。おばあちゃんの作った田作りも栗きんとんも無い。3人でテレビを見て寝て起き…

#79 意味のないこと意味のあること

「どうしてお前は意味のないことを心配するんだ?」 高校の時に友達に言われた言葉。部活の試合の帰りでみんな疲れた顔でバスに乗っていた。ちょうど女の人が降りたあとだった。その女の人というのが問題で、彼女の腕には無数の切り傷があったのだ。どうもリ…

#78 はるかに遠い——『停電の夜に』を読んで

2018年の夏のある日、シリア出身だという人に初めて会った。彼は広島大学の大学院で建築を勉強していると言った。F市で行われたインターンシップに私たちは参加していた。インターンとは言ってもほとんど観光のようなものだった。F市にある工場や会社を巡っ…