シゲブログ ~避役的放浪記~

大学でロシア語を学んでいました。関西、箱根を経て、今は北ドイツで働いています。B2レベルのドイツ語に達するのが目標です

フィクション

#225 黒と紫

小さい頃から自分か我慢すれば物事が解決することが多かった。父と暮らしていた時も、祖父母の家に毎週行く時も、私は自分が何をやりたいのかわからないまま生きてきた。 ゲームもテレビも漫画も欲しかったけれど禁止されていた。硬い感受性のままに生きた。…

#191 みたいな。朝吹真理子『きことわ』を読みながら

例えば真実。 例えば、世界の全てを説明するような秘密。その隠された真実を、隠された秘密を、人間はどのようにして見つけ出せば良いのだろう。 真実が雨と共に空から降るとしたら。水とともに川を流れ、真実はやがて海へと行き着く。太陽に照らされた海か…

#136 うにょうにょうにょーん

自信がない。どうしてこんなに自信がないのか一週間ぐらい考えていて、ほら例年よりも大幅に早い梅雨入りとかなんとかで雨ばっかりだから、心もどんよりしている。今日はずっとオードリーのオールナイトニッポンと真空ジェシカのラジオ父ちゃんを聴いていた…

#106 1ステップ2ステップ

※この話はフィクションです。 ※暗い話が苦手な人や落ち込みやすい人は、調子が良い時に読んでみてください。 大人になんかなりたくないわあ、と言った私に、あんたももう大人なんやでとお母さんは言う。大人って何、みたいな会話は結局いつも哲学みたいなく…

#96 2017年。春から夏。

祖母が息を引き取った時、私は祖母の前に座っていた。2日前から祖母は何も言わなくなっていた。何も言わなくなったその時に私の中でおばあちゃんは死んだ。だから息をしていないから、心臓が動いていないからといって、家族が今泣いているのは少し変だなと思…

#95 鍵っ子だった

鍵っ子だった。 尼崎の駅前のマンションに住んでいた。道路が拡張されたせいで今はもう残っていないけれど、マンションの前には広い花壇があって、春になると一面にチューリップが咲いた。毎年毎年チューリップの横で従兄弟達と写真を撮った。伯母がカメラに…

#85 海野君のこと

今とてもしんどい。 理由はたくさんある。まず第一に睡眠の問題。昨日は友達と朝まで遊んだ。フットボールとアルコール。ラーメンとカラオケ。 第二に食事。春休みだからのらりくらり一日一食。時間も栄養素も偏っている。でんぷんばかり摂っている。 第三に…

#71 血と無神経

その部屋には立派な本棚があって、おおよそ私に縁はないような本が並んでいた。日本史に関わるミステリーや旧日本軍の太平洋戦争の戦記などが乱雑に並べられていた。私はそれらのタイトルに心惹かれることはなく、ざっと眺めただけで部屋を出た。こういう時…

#70 非日常発日常行

令和元年9月19日 夜行バスが八重洲口を出たのが9時50分。電灯が消えたのが22時13分。三列目の通路側に座りながら終わりつつあるこの旅行について考えていた。東京で再会した友人のこと、ソウルで食べた焼肉、釜山の博物館、慶州のお寺と古墳、全州のバス停で…

#60 私たちは何者かにならないといけない

2留している。 いや、正しく言うと、実際に留年したのは1年。その前は休学だった。 休学しても別に何もしなかった。旅行をちょろちょろして免許を取っただけだった。 今月、私は23歳になる。 「大学生で22歳」と言うのと、「大学生で23歳」と言うのは違う。 …

#59 ある出来事

※この話はフィクションです。血の描写があるので、苦手な人は読まない方がいいと思います。 11時を回ったところだった。 通称ラーメン横丁と呼ばれる通りを抜けて男は駅へと急ぐ。明日は土曜日。仕事がないとはいえ午前中は出社しなければならない。再来週に…

#51 ハテナを投げろ!

そして迎えた新年。うちは家族で集まるとすぐ坊主めくりをするのだけど、正月一日の午後になって「ボウリングに行きたい」なんて弟が言いだして。「ああめんどくさいこと言うなよ」と思った私が口を開ける前に父が「ストライク! いい考えや!」なんて叫んで…

#41 不確実性の時代におけるデートについて

もしあなたが優しい人だと思われたいのであれば、集合場所はビッグイシューの販売員がいる駅にするべきだ。相手が来た時を見計らってビッグイシューの最新号を手に取りきっかり350円を渡すのだ。お釣りをないようにするのが親切と言える。改札を出たばかりの…