シゲブログ ~避役的放浪記~

大学でロシア語を学んでいました。関西、箱根を経て、今は北ドイツで働いています。B2レベルのドイツ語に達するのが目標です

#229 カフェにて


 まあ、こういう日があってもいいか。そんな風に思って、でも少し落ち込んでいる。今日は
Lütjenburgの街に留まることになりそうだ。Nurlinaの彼氏がシェアハウス(ドイツ語ではWGと呼ばれる)に泊まりにきているとか、来週からWolfsburgで新しい生活を始めるProvidennceにみんなでついていって、ハノーファーかどっかで遊ぼうとか、WGではみんなイースター休みのことを話していた。結局私たちはみんなお金がないから、予定を立てても「しない」という決断になるのだけど、でも予定を立てるのは自由だ。

これはいつも乗る職場までのバス

 今日は、知り合いに誘われて本当はBBQに行く予定だった。なんだけど、その場所に行くのにバスを乗り継がないといけないとか、そもそも雨が降っているとか、お互いに人見知りだとかで、結局やめになった。私はラッキーなことに二度寝ができた。でもせっかく越してきた後に初めて出来た予定がそんな風に潰れて少し悲しかった。どこか遠い場所に行きたいという気持ちがあったのに、行けないっていうのはなんかそわそわする。予定があったのに、したいことがあったのに出来なくなった。もどかしい気持ち。

バス停からの景色

 乗り換えの街まで行こうかなあと思ってバス停まで行ったけれどバスは来ず、代わりに行きたいと思っていた街唯一のカフェに行くことにした。仕方なく壁際の少し暗い席に座ってこの文章を書いている。どうしてバスは来なかったんだろうと思うけれど、田舎すぎてバスは時間通りに来なかったりするし、休日だからそもそもバスはなかったのかもしれない。結構適当だ。この前、バスが来ると思ってたら大きめの乗合タクシーが来て驚いた。結構なんでもありなのだ。

小涌谷のカフェ

 今まで生きてきて、何度となくカフェで文章を書いた。JR西宮のミスタードーナツから始まり、阪大坂下の知るカフェ、石橋のミスド茶屋町マクド、瀬川のマクド北千里ミスド、小野原のミスド。なんだほとんどミスドマクドじゃないか。

 いや違う、こんなことが書きたいんじゃない。粟生間谷のカフェ風輪、国道171の角にある純喫茶キャビン、箱根の台湾カフェ、宮ノ下のバーガー屋Funny’s 、仙石原の本喫茶わかば。それから強羅のコーヒーキャンプ。私が暮らした街には私が通ったカフェが残っていて、地図の上に永遠に残るわけじゃないけれど、でも私の頭の中には永遠に残る。私の文章にも時々残る。最初でカフェで文章を書いた人って誰なんだろう。というかカフェ文化の発祥ってどこなんだろう。

 

 コーヒーではなくて、お茶を飲みながら文章を書く。ということならすでに平安時代の貴族がやっていそうだ。でもそのお茶は今のお茶と違う気がする。もしかしたら団茶だったかもしれない。友達が最近源氏物語にハマっているらしいから今度聞いてみよう。

 フレンチプレスで淹れたコーヒーを飲むようになったのはドイツに来てからだ。初めは粉っぽいと思ったけれど、きっとトルコやギリシャでコーヒーを飲んだらもっと驚くのだろう。同じように平安時代の歌会かなんかにタイムトラベルしてお茶を飲んだら全然違う味に驚くのだろう。もう一年以上煎茶も麦茶も飲んでいないから、日本に帰ったら普通のお茶に驚くような気がする。

ビスマルク塔。この街の名所

 今住んでいる街の名前をちゃんと発音できない。ウムラウトの付く音の発音はまだ難しい。なんでなんだ。リュッチェンブルクって言ってるのにいつもルクセンブルクだと思われている。悔しい。まあ人口が4000人くらいしかいない小さな街なのでみんな知らないってのもあるんだけど。図書館は小さくて、午後空いているのは週に3日だけ。古本屋と本屋さんが一つずつで、カフェと呼べるカフェは私が今いるこのカフェだけで、スーパーの建物の中に入っているおそろしく無愛想な店員ばかりのカフェが二つある。日本のマクドナルドのメニューに「スマイル0円」なんて書いてあるなんて、ここの人は考えたこともないだろう。

 一応チップの文化はドイツにもある。ブレーメンのレストランに行った時にチップを求められた。その時の店員もひどく無愛想だった。短い時間だったとはいえホテルマンをしていた自分からしたら「サービス」というのはまずは笑顔であり、注文したメニューと人を覚えるとか、人をニッコリさせることだと思うのだけどな。人との関係を潤滑にするという、人類愛ともちょっとだけ繋がっていると思っている。「サービス」についての考え方も国や地域が違えば全く違うような気がする。

元箱根のカフェ

 カフェが有名なのはどこだろう。イタリア? フランス? ドイツ? イングランドではなさそうだ。フランスもパリにはたくさんカフェがあるように思うけれど、田舎の街角ではコーヒーではなくてワインを飲んでいる人が多そうだと思う。ドイツのカフェは面白いけれど、どうなんだろう、高いなあと思うことが多い。ちゃんとしたカフェはおしゃれして行く場所なのだと思う。自分みたいに一人できてちまちま文章を書く人はほとんどいないのかも知れない。

 カフェに関するエピソードで一番好きなのは、お金のないモディリアーニがカフェにきた客の似顔絵を描きなぐり、それを売りつけてコーヒー代を払っていたエピソードだ。

彫刻の森美術館

 モディリアーニは元々彫刻家になりたかったらしい。箱根にいる時に本で読んだ。働いているホテルには宿泊客用に本が読めるスペースがあって、そこには箱根に関する雑誌とか、社長の好きな詩集や三島由紀夫があった。エレベーターと客室の間にあるので、一応流れとしてそのスペースも説明することがマニュアルになっていた。とはいっても大抵の客は箱根を見て回った後で、早く部屋でゆっくりしたいからそんな説明をしても無反応に近いのだけど、たまに「いいわねえ」なんて言ってくれるおばあちゃんがいて嬉しくなる。嬉しくなっていた。

 部屋の清掃がまだ完了していない時や、あるいはお客さんがチェックインにフライングして来た時、そのライブラリーが使われた。そこで宿帳を書いてもらったりウェルカムドリンクをサービスしたり。サービス。ホテルの経験がなかったら、今日サービスについて考えいていない。

 私はそのスペースがホテルの中でも結構気に入っていて、夜中、誰もいない時間にこっそりソファーで座って本を読んで過ごしていたりした。だから、たいしたことのないそんな場所にも、しっかり聴いてくれる人には好感を持っていた。「スペース」とは書いてるが、正式な呼び名があった気がする。「ライブラリー」だっけ。

 チェックインの様子を見て、どの客にどのスタッフを接客させるべきかということは、上司のRさんが決めるのだけど、「ライブラリー」の説明をしっかり聴いてくれるお客さんは特に問題がなくて、経験が浅いスタッフでも接客できるようなお客さんだった気がする。Rさん曰く、「シゲには女性2人組とか、お年寄り夫婦を当てることが多いね」とのこと。Rさんのことはいつかまたちゃんと書きたい。自分より若いのにとても観察力があって、かっこよくて、隠しきれていない弱さも持っていて、とっても魅力的な人だった。

 演劇をやっている先輩が、「役者に向いてるのになあ」って言っていたけれど、退廃的で、少し破滅的にも見える彼は不思議な魅力があった。憎しみのエネルギーを、それを何か別のものに変えたら、ものすごいものを作れそうなのにな。

ホテルの研修

 話をモディリアーニに戻す。ライブラリーにある本の中には、モディリアーニの展覧会のパンフレットがあった。箱根のポーラ美術館で10年前にあった展覧会のものらしかった。ちょうど大阪に帰るタイミングで中之島の美術館でモディリアーニの展覧会があって、その予習のためにそれを読んだのだ。

 トスカーナで美術教育を始めた彼は元々彫刻家になりたかったらしい。資金が不足してるとか石材が手に入りにくいとかで、絵画での表現に転向したらしい。働いているホテルから歩いて20分くらいの距離に彫刻の森美術館があって、そこには彼の彫刻作品があった。緑の中にある美術館で、そういえば美術館の中にもカフェがあった。カフェラテを一度飲んだことがある。

 

 カフェは都会の文化なのかも知れない。カフェに一人で来るという文化は特に。今いるカフェはひっきりなしにいろんな人たちが来て、ケーキを食べてコーヒーを飲んで出ていく。イースター最初の日だからみんななんだか楽しそうだ。

 あ、あの人は一人だ。そう思ってもケーキを包んでもらっているのを待っているだけだったり、連れの人がトイレに行っているだけだったり。

 HamburgにはHamburgの良さがあって、LütjenburgにはLütjenburgの良さがある。Hamburgなら一人でカフェに入るのは全然平気だけど、ここでは違う。面倒だなと思う。気にせずに入るけど。移民としてここで生きていこうとするのは想像以上に難しい。バスの本数が少ないとか、最寄りの都会まで1時間かかるとか、本屋とカフェが一つずつしかないとか、なのにスポーツクラブは3つもあるとか。そういうのは心の中でツッコんで楽しんだりできるけど、でも時々寂しくなる。

 私は今、ヘアドネーションのために髪の毛を伸ばしているのだけど、東アジアから来た長髪の男なんて、みんな挨拶しないよねそりゃ。友好的に見られるように努力はするけれど、それよりも髪の毛を切らないことの方が今は大事だ。

食器のぶつかる音と話し声が小さな空間に反響して、それがこの1ヶ月の私の頭の中みたいだなあと思う。少し自転車を漕いで遠回りして帰ろう。

カフェの後で行ったお城と教会

 

【今日の音楽】

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