シゲブログ ~避役的放浪記~

大学でロシア語を学んでいました。関西、箱根を経て、今は北ドイツで働いています。B2レベルのドイツ語に達するのが目標です

#200 沖縄4日目。ヤンバルクイナ生態展示学習施設

 ヤンバルクイナ。沖縄にいる飛べない鳥。ヤンバルクイナ。沖縄北部の「ヤンバル」に生息する希少な鳥。人が持ち込んだマングースの侵入によって数を減らしている鳥。
 
 知らない土地の知らない自然。知らない言葉、文化。
 今日もたくさんのことを知る。「山原」と書いて「ヤンバル」と読むのも「水鶏」と書いて「クイナ」と読むのも。今日知った。
地域の子どもが書いたらしい習字が壁にかけられていて半紙に「山原水鶏」とあった。
 ヤンバルクイナ生態展示学習施設。カタカナが7つと漢字が8つ。ガラスの向こうに「クー太」という名前のヤンバルクイナが一羽だけいて、人懐っこい性格の彼が観光客にヤンバルクイナの生態を教えてくれている。1時間に一度、餌を食べる様子が見れる。そしてスタッフさんによる解説が聞ける。ヤンバルクイナは雑食だけれども、餌はオキアミをベースにしているみたい。

チケットを買ってヤンバルクイナのいる建物へ向かう

 ヤンバルクイナ生態展示学習施設というからには、数十羽、少なくとも4羽5羽くらいのヤンバルクイナがいるのだと思っていた。飛べない鳥なのだから牧場の羊のように芝生の上に何羽もいるのだと想像していた。

でもガラスの向こうにはクー太が1羽しかいない。それが、目の前の可愛らしい鳥が絶滅の危機に瀕していることを余計に感じさせた。

 ガラスの向こうの動物を見ると、いつも思い出すのは『ハリーポッターと賢者の石』だ。狭い場所に閉じ込められ、生活の一部始終を見ず知らずの人間に見られている動物たちが可哀想になる。
ホグワーツに行く前の、まだ自分が魔法使いとも知らないハリー。うんざりした表情の蛇に同情した彼は、意図せず魔法を使ってしまい、スルスルと地面を張って蛇が逃げていくシーン。ちなみに蛇は動物園生まれ。ブラジルを知らない。
 

近くで見ると大きい。野生と比べるとクー太は太り過ぎらしい
 人工的に孵化され、施設で育ったクー太が今自然に戻っても、きっとハブやカラスにやられてしまうだろうと、職員の人は言っていた。野生は厳しいのだ。それに餌の食べ過ぎと運動不足で、太り気味らしいし。
 縄張り意識が強い彼らは、狭い場所では一羽ずつしか一緒にいられないらしい。それもあってクー太は1羽でしかいられない。自然界では彼らの縄張りは、400から500平米ほどあるそうだ。それでも生態についてはまだまだわかっていないこともあるそうだ。

シルエットがかわいい
 環境庁の繁殖・保護施設が他にあって、そこには人工孵化された幼鳥や保護された成鳥が70羽ほどいるらしい。成長した雛はダミーのハブやカラスで外敵について学習し、自然に戻っても良いと判断されたら放鳥されるらしい。兵庫県コウノトリと同じだ。
 一人だけいた女性職員が色々教えてくれた。毎日いるらしいその職員さんをクー太は認識しているらしく、姿を見ると駆け寄ってきた。とても頭がいい鳥なのだと思う。鏡に映る自身をも認識するらしい。すごい。
 
 私は昔読んだ学研の動物図鑑や社会科の資料集に載っていた情報を思い出してみる。ハブを駆除するために持ち込まれたマングースや、野生化した猫や犬が、ヤンバルクイナを食べてしまうこと。数を減らす一方のヤンバルクイナを絶滅から救うため、努力している人がいること。
 
 小学校の図書室の風景が浮かんで消えた。生き物が大好きで、いつも魚の図鑑を持ち歩いていたイマムラ君のことを一瞬だけ思う。運動神経が良くて長距離が早かったイマムラ君。今何してるんだろう。

 1985年には約1800羽いたヤンバルクイナは、2005年の時点で700羽ほどに減っていたらしい。それをマングースを捕まえるための檻を設置したり、北上するのを防ぐ柵を設置したりと様々な努力を経た結果、現在は1200羽ほどまで回復したそうだ。
 1200羽とは言っても、正確な数がわかっている訳ではないらしい。ヤンバルクイナは群れではなく、単独あるいはつがいで行動する。そしてヤンバルクイナが生息するのは亜熱帯の森の草藪の中だったり、木の上だったりする。そのため視認で個体数を数えるのは不可能らしい。
 個体数調査にはプレイバック調査が用いられるそうだ。なんでも鳴き声から個体数を割り出す作業らしい。
 録音した鳴き声を森の中で流し、それに反応した声から野生にいるヤンバルクイナを数えていくのだ。なんて途方もない作業なのだろう。でもこうして「クイナの森」という施設を作って、来る人一人一人にクイナの生態について説明するのも、同じようにすごい作業だと思った。

 ちなみにヤンバルクイナが木の上でも生活するのは、ハブが地上にいるからである。ハブは長らく沖縄本島における生態系ピラミッドの頂点にいるが、天敵のハブから逃げるべく、ヤンバルクイナは跳躍力を身に付けたらしい。垂直に1メートル跳べるらしい。つまりヤンバルクイナは飛べないけど跳べる鳥なのだ。ハブは夜行性なので、夜になるとヤンバルクイナは樹上に登って眠るという。
 
 そんなことをいくつも聞いた。関西弁の老夫婦が色々質問していたのもあって、たくさんのことを知れた。国頭村(くにがみそん)、大宜味村(おおぎみそん)東村(ひがしそん)の3つの地域ではヤンバルクイナの保護を積極的にしていて、ペットの犬や猫にICチップをつけたりしているらしいけれど、その他の地域とはやはり温度差があるみたいだ。
「この施設、もっと宣伝しなあかんのちゃう?」
というのは関西弁の彼らの言葉だけど、人がたくさん来れば来るほど、交通事故に遭う個体数が増えてしまうらしく、ジレンマが存在するのだ。
 ヤンバルクイナは見た目が綺麗だったり、知名度があったりして観光資源になるものの、生息地に道路がある以上、死んでしまう数はゼロになったりはしないのだろう。外敵がいない離島で進化を遂げた生き物にとって、新しい環境に慣れるのは時間がかかりそうだ。新環境に適応することが苦手な自分にとって、そういう生き物に対してはいつも親近感を持っている。

 交通事故で死ぬことを「ロードキル」というらしいのだけど、「今年のロードキル件数〇〇件」という数字が施設内にも掲示されていたし、道路脇にも掲げられていた。他にも、「飛び出し坊や」ならぬ「飛び出しヤンバルクイナ」もたくさん道路沿いにあった。
他にも、道路下を抜けられるようなトンネルがアスファルトの地下に造られていたり、道路脇の側溝に落ちた雛が自力で抜け出せられるように、側溝から地上に戻って来られるような階段があるらしい。湿った落ち葉や腐葉土にいる虫を食べるクイナは道路の側溝に入ってしまい、出られずに死んでしまう雛もいるらしい。
 ちなみに、やんばるには、ケナガネズミという沖縄と奄美、徳之島にしか澄んでいない固有種もいる。「ケナガ」とは言うけれど、尻尾も長くて体長と同じ30センチほどの長さがあるらしい。ロードキルによって死ぬケナガネズミも多いらしい。松の実を好む食性と、道路ぞいに松の木が生えていることが関係があるみたいだ。

 一昨日に県立博物館で見た展示を思い出す。
 大型の肉食獣は広い生息域を必要とするため、狭い島では絶滅する傾向にあった。そのため、ガラパゴス諸島タスマニア島など、島嶼部の生態系はユニークなものとなっていることが多い。奄美大島アマミノクロウサギや、タスマニア等のタスマニアデビルのように、大陸では大昔に絶滅した生物との繋がりを持つ希少な生物が生き延びているのだ。
 
 ハブを駆除するために導入されたマングースヤンバルクイナを追い詰め、マングースが減った現在、今度は台湾出身のタイワンハブというのが北上しているらしい。視覚と嗅覚で捕食するタイワンハブは、まだ名護市より北では確認されていないらしいが、ヤンバルクイナを保護する人々からすると、すでに脅威なのだ。

グッズがたくさんあった。フレークシールを買った
 こういう場所で、どこまで自分ごととして考えることができるかによって、性格が出るよなと思う。それは、真面目さ良い加減さとも言える。あるいは生きやすさ生きにくさとも言えるかもしれない。私にとって沖縄は観光地というよりも基地があるとか、戦争の遺跡があるとか、そういうイメージたあった。観光しかしないことにもやもやしていた高校の卒業旅行を踏まえて、観光地でワイワイするだけの旅行にはしたくないと思っていた。今日、珍しい鳥ヤンバルクイナを、ただただ見たいと思って来たけれど、意図せずして真剣に考え込んでしまった。
 施設の看板に書かれたヤンバルクイナの説明はこんな風に終わっていた。
「運が良ければ、ヤンバルクイナはやんばるの森と同じくらい長く生き残ることができるでしょう」

 
 
【今日の音楽】
 
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