シゲブログ ~避役的放浪記~

大学でロシア語を学んでいました。関西、箱根を経て、今は北ドイツで働いています。B2レベルのドイツ語に達するのが目標です

#212 図書館に行ってみよう

 地図を見ていたら本のマークがあった。Bücherhalle って書いてあったからきっと図書館だと思う。Bücher が本の複数形。単数はBuch。Halle がホール。ドイツ語の名詞には性がある。Buch は中性名詞だけど Halle が女性名詞なので Bücherhalle も女性名詞となる。どうしてかはわからないけれどそういうカラクリらしい。
 地図で見て気になってから5日くらい経った後で、この前ついに行ってみた。別に変なことはない普通の図書館。辞書で調べてみて「Bücherhalle」の対訳が「図書館」でなかったとしても、私のいる場所はどう考えても図書館。
 昼過ぎなのに人がいて、自習用スペースは空席が数席しかなかった。図書館としては少し小さめで私の街なら「西宮市図書館〇〇分室」という名前になっていると思う。

 図書館ってコミュニティの中で情報を集めたり発信する場所にもなっていると思うのだけど、それはドイツでも同じで、地域のスポーツ教室のチラシがあったりイベントの案内が置いてあったりした。図書館の本で育ったからか、とても落ち着く場所だった。私は居座ったら長く勉強するタイプなので座席が少ないのはちょっと困るけど、でもここに席がなくても近くのマクドナルドはいつもガラガラだし、これから暖かくなれば外の適当な芝生でも勉強できる。それにここまで来たら街の中心までU-Bahnで20分で行ける。学校の前とか学校の後に自習できるなあとか思いながら書棚を歩き回る。この図書館にある本を読めるほどに私のドイツ語は成長するだろうか。成長しないとな。

 どこからかロシア語の会話が聞こえる。ドイツ語を勉強しているロシア語話者か、あるいはロシア語を勉強いているドイツ語話者か。数人が机を囲んでロシア語とドイツ語で話していた。「私もロシア語話したいです」なんて急に入って行きたいけれどそれはきっとここでも変だろうからやらない。いくら日本とドイツが違うとしても、きっとダメだろう。この「2022年以降の世界」でロシア語を話せるというのは、少し奇妙なことだ。ドイツにいる東アジア人がロシア語を理解するなんて、きっとユニークなのだろうけれど、でもだからと言っていきなり話しかけると変な人になってしまう。まあ、変な人でも良いのだけど。というかすでに変な人か。
 適当に席を見て座る。左の席の男性はアラビア語を勉強しているように見えたし、右の席に後から座って来た女の子は化学の勉強をしていた。微かにたちこめる人の匂い。昔いた尼崎の図書館を思い出す。「カホちゃんのお母さんが「スメルのする人」と呼んだ大人たち。

 小田公民館。従兄弟が住むマンションの1階が図書館になっていた。図書館と反対側には年少の幼児が通う保育所があった。従弟はその保育所に通ったのだけど、私がその街に越して来た時は4歳になる手前だったのでその保育所には通わなかった。
 実を言えば、その保育所に行きたかった。その保育所に通っていてほとんど生まれた時から友達がいる従弟が羨ましかった。賢かったことがその頃の自分にとって不幸だった。大人が私のことを話している時はいつでも気づいた。祖母は、子供であれ誰であれ、他人に容赦せず自分の思ったことを言う人だったから、私は保育園児なりに傷ついていた。父親と母が話している時も同じ。
 父親の家族が母に対して酷いのを見ていた私は、ずっと心配で寝れなかった。ある夜を境に父親と会えなくなった後は、今度は母が私を捨てるのではないかと怖くて眠れなかった。でもそれを言うと大人が心配するから言わなかった。言えなかった。母の仕事が遅い日は伯母の家に預けられたのだけど、伯母も祖母も私が寝ないと怒った。その時にはすでにトラウマを抱えていたし、ある意味ではもう大人を信じられなかった。寝るのが怖い理由としてはすごく真っ当なものがあったと思うのだけど、あの頃の大人たちはちょっと私に対して酷かったのではないか。時々腹が立つ。伯母とも伯父ともその話はできていない。伯母は私にとってはずっと「怖い人」だ。きっと家族の中では一番私と近しいことを考えているのだけど、一緒にいて安心だと感じれたのはもう随分前。4年前に過呼吸を起こしてしまってからは修復が不可能なほどになってしまった。伯父は感情インテリジェンスが乏しくて、メンタルヘルスについて話してもきっとわかってくれない。「お前なら大丈夫」と言うだけだ。きっと伯父の父がそう言ってきたからだろう。でも彼は親友の一人を自殺で亡くしている。だから本当のところ何を考えているのかは知らない。口は達者な人だから聞いたらたくさん答えてくれるのだろう。でもどの言葉が本当かわからない。感受性に乏しい祖父は別の言語圏にいるような人。最初から当てにはしなかった。
 最後に祖母。祖母とはもう話せない。私が「死にたい」と初めて家族に訴えることができたのが16歳で、20歳の時に祖母は死んだ。短すぎた。祖母は私にとって大好きな人で、でも同時にいつまで経っても許せない人だ。大学に入学した時、祖母と手紙のやりとりをしたのだけど長くは続かなかった。もっと書けばよかった。私がしっかりと言葉を獲得して、反論できるまで生きていて欲しかった。26歳の私はまだあなたに縛られています。ましな言い方をすれば、まだあなたのことを身近に感じられています、ってこと。

 「本当に」彼女が生き続けていたら違うことを思っているのだろう。
 
 今もこれからもずっと、家族との間には壁がある。隠したって仕方がない。ずっと家族の中で安心できなかった。いとこ達との関係はどうだろう。私がこれからも殻に閉じこもる限り、離れていくのだろうな。というか人間って何もしないと離れていくよね。とにかく、4歳で父親の家から切り離された私は、新しい街で新しい生活を始めないといけなかった。それってとても悲しかったのだけど、誰も私の辛さをわかってくれるように思えなくて、保育所ではずっと泣いていた。あの頃の私に言葉があれば。
 
 消防車の形をした鉛筆削りをもらったのも、初めてこの本を手元に置きたいと思う本を見つけたのも小田公民館。母は小学校の前から連れて行ってくれた。小さい子向けに靴を脱いで上がれるスペースがあった。時々、日中に行き場がない人が紙芝居コーナーで座っていたり寝ていたりした。その人たちが、カホちゃんのお母さんが「スメルがする」と侮蔑的なニュアンスで呼んだ人たちだ。カホちゃんは同い年の友達で、クラスメイトという以上に一家で一緒にキャンプに行ったりするような間柄だったのだけど、いつの間にか疎遠になった。ある意味、私と従兄弟はあの街を離れることができたけれど彼女たちはそのままだった。私は尼崎のことが好きで、転校した先に馴染めなくてずっと戻りたかったのだけれど、逆にカホちゃんのお母さんはずっと離れたかったのだと思う。カホちゃんのお母さんが離れたかった理由は今ならいくつか思いつく。

 今いる席は窓際。自転車が雨の中を走っていく。ハンブルクは雨が多い。湿度も年間を通じて安定していて、降水量も少ないのだけど、霧雨が多いらしい。何かのサイトでそう書いてあった。タバコを吸いに外に出た人が通り雨に打たれて、濡れながら満足気な顔で吸っている。少し凍えているくらいが煙が美味しいのかもしれない。ドイツはタバコを吸う人が多い。カフェも分煙されていないし、室内とか屋外とか関係なく平気でガンガン吸う。牛乳の代替品としてオーツや米から作られた飲み物があったり、みんな自転車に乗っていたり、電気自動車が普及してたり、環境のことを考えている雰囲気はとてもあるのだけど、タバコはやめられないみたい。喘息だから気になるっていうだけで、別に良いのだけど。喘息じゃなけりゃ、むしろ吸いたいくらい。
 傘を差す人が少ない。みんな水を弾く素材のウインドブレーカーだったりコートだったりを持っている。足跡のついた Jack Wolfskin のロゴを毎日嫌というほど見ている。機能的な服のせいなのか、みんな一様なファッションで面白くない。郊外のベッドタウンより中心地の移民の多い地区の方がお洒落な人は多い。
 7時になって閉館の時間。また来ようと思いながら出口へ。この図書館、あと何回来れるだろう。初めて来たのに、もう終わりのことを考えている。雨の中を帰る。一瞬だけ日が差して、また太陽はどこかへ。日没まであと1時間半くらい。なんでここまで来て家族のこと考えてるんだろ。やめだやめ。途中でスーパーに寄ってチョコレートでも買おう。

 
 
【Aufsatz001】
Ich komme aus Japan, aus Osaka. Meine Stadt heißt Nishinomiya. Nishinomiya liegt zwischen Kobe und Osaka. In 20 Minuten ist man in Kobe auch und in Osaka. Meine Stadt hat drei Eisenbahnen, so ist das Leben bequem! Ein berühmte Ort in meiner Stadt ist „Koshien Baseball Park“. Die Baseballspieler spielen hier von Frühling bis Herbst. Das ist mein Lieblingsplatz.
 
 
 
【今日の音楽】
 
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