2020-01-01から1年間の記事一覧
小さい頃、街で車いすの人を見かけた。私はその人のことをかわいそうだと思った。その人は守られるべき対象で優しく接しないといけない。その人には誰しもが無償の愛情を注がないといけない。私はそういう風に考える、少し変わった、気持ちの悪い子どもだっ…
大学生になったらアルバイトをたくさんするのだと思っていた。 最初に始めたのはイベントスタッフ。初めて入ったのがインテックス大阪でのKANA-BOONのライブだった。『フルドライブ』や『ないものねだり』のような有名な数曲ぐらいしか知らなかった私は、観…
何かをする前に、実現不可能な期待を抱いてしまう人間が一定数います。私の教えるロシア語のクラスにも毎年そのような学生が何人もいます。「ロシア語ができたらあんなことがしたい、こんなことがしたい」と考えるのは勝手ですが、語学は一足飛びに身につく…
水曜日。久しぶりに大学の食堂でご飯を食べた。ゴビゴビ砂漠とSさんと一緒に食べた。食堂は感染対策のためにブース型自習室のように仕切りが立てられていて、3人で食べているのにまるで1人で食べているような気分にさせる。誰かが5月ぐらいにzoomの授業の中…
従兄弟の家から帰って、リビングでテレビを見た。女芸人No1決定戦The W。令和になっても「女芸人」という表現が残っているのはどうなのかしらと思うけれど、お笑いの世界では「男」がマジョリティで、それ故に光が当たらない「女」芸人がいるからこそ存在す…
私の寝起きの悪さは7つの海と5つの大陸の津々浦々にまで轟くほど有名で、もし第三次世界大戦が起こるならそれは私の寝起きの悪さによって引き起こされるでしょう。あるシンクタンクの報告によれば、私の寝起きの良しあしが株価に影響を与えていることはほぼ…
猫の声がした。確かにしたのだけれど暗がりの中に目を凝らしても何も見えなかった。もしかしたら誰かを乗せた自転車が軋む音だったのかもしれないし、どこかのフラットで誰かが椅子を引く音だったのかもしれない。でも私が聴いたのは確かに猫の鳴き声で、だ…
重力のない○○ トンネルを抜けていく路線バスとオレンジ色のライト レンジの中で火花を散らすステンレスカップ 芝生でネコと遊んだ後のムズムズする鼻 大講義室を我が物顔で歩いていたネコ プールの後の教室の気だるい感じ お気に入りなのにクラスメイトに笑…
気まずい? あなたが踊っていた日はちょうど従妹の誕生日で、だから私はしばらくは忘れない。 あなたはすぐに忘れても私は思い出し続けるでしょう。 あなたが踊っていた時、月は隠れていて、夏なのに涼しかった。 あなたが気まずいなんて思うなんてなんかも…
ジャンパーをクローゼットから出した。おしゃれな24歳が羽織る上着は「コート」なのだろうけれど、私が着るのは「ジャンパー」である。そう。まごうことなきジャンパー。 ポケットに手を入れると、去年のレシートが出て来た。チョコレートと映画館のレシート…
ジャンパーをクローゼットから出した。おしゃれな24歳が羽織る上着は「コート」なのだろうけれど、私が着るのはジャンパーである。そう、まごうことなきジャンパー。 ポケットに手を入れると、去年のレシートが出て来た。ガソリンスタンドとミスタードーナツ…
私は記憶力がいい方である。最も古い記憶は父親の実家で洗濯籠を被って遊んでいた記憶である。たぶん2歳になる前だと思う。「そんなことしたら大きくなられへんよ」と父方のおばあちゃんが言って、その言葉通り私は身長が伸びなかった。よくL'Arc〜en〜Ciel…
白兎海岸 ◎令和2年8月25日 道の駅神話の里白うさぎという場所に車を停める。 眠い。眠いし暑い。昨日3時間ぐらい鳥取砂丘でぼうっと海を見ていたからたぶん日焼けしたんだと思う。体がじんわり熱かった。日焼けは気持ちいけれど、体力がなくなるので一人旅な…
※この話はフィクションです。 ※暗い話が苦手な人や落ち込みやすい人は、調子が良い時に読んでみてください。 大人になんかなりたくないわあ、と言った私に、あんたももう大人なんやでとお母さんは言う。大人って何、みたいな会話は結局いつも哲学みたいなく…
九州からゴビゴビ砂漠が帰って来た。一緒に夕食を食べに行った。大学から一番近いところにある回る寿司。彼が留学から帰ってきて以来1年半ちゃんと喋っていなかったから少し緊張していて、久しぶりに会ってどんな話をしようかと思った。 あんまり大きな声で…
ゴビゴビ砂漠いわく平安時代は今と同じような温暖な気候だったらしい。ゴビゴビ砂漠というのはクラスメイトのあだ名である。 彼の言う通りだとすれば、たとえば菅原道真の祟りだと考えられていた洪水や落雷は、もしかしたら温暖な気候のために起きたことだっ…
実家に帰った。リンゴを買った。剥いて食べた。 つがるりんご プリモントリオールを捨てた。ナイキの黒い靴。かっこいい靴。靴底に穴が開いて、雨の日には靴下が濡れるようになっていた。洗えない靴らしいから、天日に干していたけれど、くたびれていてもう…
◎令和元年8月6日 私はあの夏と同じように病んでいて暑さにやられている。大学に入った頃と同じようにまたカウンセリング室に入って話を聴いてもらう。ただそれだけ。悲しさ? つらさ? 優しさ? やり切れなさ? いろいろ感じるけれどうまく言葉にできない。 …
◎令和2年8月25日 お風呂に入るのが目的の旅行だったのに、旅行1日目はお風呂に入れなかった。眠くなる前になるべく遠いところまで来ようと頑張りすぎた結果、遅い時間になって開いている銭湯がなくなってしまったのだ。新期造山帯の国を旅行する醍醐味は温泉…
◎令和2年8月24日 旅に出ています。おじいちゃんの家で車を借りて、ものの10分も走れば緑の広がる土地です。不思議です。日常の中では意識しなくては自然を見つけられないのに、旅に出ればこんなにもたくさんの植物を目にすることができます。山や川、森や林…
忘れられることは死ぬことだ。 ずっとそう思っている。逆もまたしかりで、誰かを忘れることは誰かを殺すこと、とまでは思わないけれど、それに近いことだと考えている。昔から忘れたくなかったし、忘れられたくなかった。一年間過ごした病院を退院した時から…
いつから死にたいと思うようになったのだろう。4歳? 5歳? 始まりはかなり早かった。父と母が言い争っているのを聴きながら、自分がいなければこんな言い合いも起こらないのだろうと思っていた。自分が悪いと責めていた。悲しかった。非力な自分が許せなく…
子どもの頃、友達が欲しくて架空の友達を想像していましたか? 自分の葬式を想像して、自分の人生を虚しく思ったりしますか? 誰かと仲良くなりたいのにうまくいかなくて、自分は他人と一緒にいられないのだと諦めていませんか? うまくいかないことを自分の…
祖母が息を引き取った時、私は祖母の前に座っていた。2日前から祖母は何も言わなくなっていた。何も言わなくなったその時に私の中でおばあちゃんは死んだ。だから息をしていないから、心臓が動いていないからといって、家族が今泣いているのは少し変だなと思…
鍵っ子だった。 尼崎の駅前のマンションに住んでいた。道路が拡張されたせいで今はもう残っていないけれど、マンションの前には広い花壇があって、春になると一面にチューリップが咲いた。毎年毎年チューリップの横で従兄弟達と写真を撮った。伯母がカメラに…
昔のサッカーを見ていた。09/10シーズンのヨーロッパチャンピオンズリーグ準決勝1stレグ、バルセロナ対インテル。DAZNがYouTubeに上げている動画ではアナウンサーと解説者が当時のことを振り返りながら実況をしていた。深夜、コーヒーを飲みながら課題の傍…
さっきまで教授の部屋で数人で話していた。教授と数人の学生で、お茶やクッキーを食べてこれからの進路のことや研究のこと、卒論のことを話していた。帰り道に友達が呟いた。 「天然な人ってちょっと苦手やな。その人の言動のどこまでが『本当』でどこまで…
進級した。ようやくだった。 夜勤だった。日付が替わった。久しぶりに大学のホームページに入った。緊張しながら「成績」のボタンを押すと、また新たなボタンが出て来た。そのボタンには「2019年度通年」と書いてある。私はこれを今からクリックする。そうす…
『ミシシッピイエロー』 こんなにいい日は外に出て絵でも描こう 春風が吹いた最初の日 心はどこへでもとんでゆける パレットの上親指でかきまぜる黄色い絵の具 少しの白ともっと少しの赤をまぜて 世界に一つのミシシッピイエロー かぐわしいミシシッピイエロ…
『詩を書こう』 こういう時だから文章を書こう そう思った それなのに言葉はあとからあとから溢れて 掬えど掬えど「本当」は掴めないまま 誰かと電話した 思いつくままこぼれ出る言葉たち 強いことば弱いことば 抱きしめたいのに目を合わせたいのに 目の前に…