シゲブログ ~避役的放浪記~

大学でロシア語を学んでいる者です 文章を書くのを仕事にするのが目標です。夢は世界一周です

#102 タイムトラベラーの憂鬱

 

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 令和元年86

  私はあの夏と同じように病んでいて暑さにやられている。大学に入った頃と同じようにまたカウンセリング室に入って話を聴いてもらう。ただそれだけ。悲しさ? つらさ? 優しさ? やり切れなさ? いろいろ感じるけれどうまく言葉にできない。

 また10分とか15分遅刻して、誰も注意をしない。おばあちゃんは「あなたのことを考えているからあなたを叱るのよ」と言っていたけれど多分本当なのだろう。逆に私がおじいちゃんにきつく当たるおばあちゃんを諫めても、おばあちゃんは聞き流すだけだったけれど。「私とあなたは同じ立場じゃないのよ。だから私が正しいの」

 実はカウンセラーの人の本当の職業を知らない。彼女の名前も初めのカウンセリングで聞いたはずだけど忘れてしまった。たぶんノートには書いてあるはず。でも調べるのは面倒。とにかく3年前とは別のカウンセラーさんだ。前の人とは違って私の人生のことについて訊いてくれる。私は自分語りをするのが好きだから、ペラペラ喋ってしまう。自分が馬鹿に見えるのはわかっている。それでも一度始まるとなかなかやめられない。自分が軽いちっぽけな存在に思える。午後。

 学生相談室の空気は涼しくて、肌が乾燥してしまう。アトピーのせいで肌が薄くなった首元がひりひりするから、ずっと首にタオルを巻いていた。今日は家族の話をした。小さい頃の話。つい最近、母が私を連れて父親の家を後にした件は、いわゆる「夜逃げ」というやつだと気づいた。夜逃げとか貧困とか、育児ノイローゼとか、そういうのって他人事だと思っていたけれど、私が4歳から7歳ごろの間、母親を取巻く状況は似たようなものだった。父親の家族と会って、その後時間をかけて考えて彼らがどういう人間かわかるようになって、今になってようやく気づいたことがたくさんある。悲しいことに、母に大事に育ててもらったのに私は未だに自分を肯定することができない。母にもまだ何も返せていない。

 

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 やっと電話がつながって、渋滞で到着が遅れることを伝えた。想定よりも早くついたけれど10分遅刻だった。10年以上前からお世話になっている矯正歯科。歯列矯正は高校に入る頃には大方終わって、その後はずっと定期健診で通っている。定期健診は私が大学を卒業すれば終わるのだけれど、浪人やら留年やらを経たから、少なくとも26歳までN先生のお世話になる。恥ずかしいと思ってしまう。自分に自信を持てないから、今日は先生の顔も受付の人の顔もまともに見れなかった。自分にがっかりした。

 いつもと同じように矯正前と矯正後の写真を比較した。10歳頃の私の歯並びは本当に悪くて、でもN先生の治療のおかげでみるみるうちに綺麗になった。歯科医のパソコンの中に私の成長過程があった。不思議だった。一時期は毎週のように通っていたから、写真はたくさんあった。とっくの昔に母が捨てたお気に入りの赤いジャンパー。今と変わらない自信のない目。初めて会った時と比べてN先生もだいぶ年齢を重ねた。初老の顔をしていた。

 私生活が荒れていて、最近はちゃんと歯を磨いていなかった。恥ずかしかった。歯石が溜まっていて取ってもらった。昔は怖かったキュイーンという歯を磨く音。バキュームが唾を吸い取る音。N先生が他の先生に指示する声。全部懐かしかった。そうだ、こんな感じなのだった。中学受験で塾に行っていた時も、高校の部活の後にも、私はこうして寝転がってN先生に口の中を見てもらっていた。歯石を削る時、神経にも振動がきて少し痛かった。それもおんなじだった。

 

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 フッ素を塗ったから30分食べたり飲んだりできないのにカフェに来てしまった。ヒロコーヒー西宮北口店。西宮北口からの距離も門戸厄神からの距離も同じくらいなのに西宮北口店を名乗っている。日替わりのホットコーヒーを2杯分頼むと、おしゃれなポットが運ばれてきた。30分経つまで待ってコーヒーを飲むと丁度飲み頃の温度だった。

 カウンター席だった。陳列される実験道具のような器具。その中を一滴一滴落ちていく水出しコーヒー。熱湯で消毒されるカップやソーサー達。店員さんの手元。茶色にまとまった店内の落ち着いた雰囲気。おしゃれだった。

 ロシア語を勉強しようと思って教科書を取り出した。意外とはかどった。学期中はやる気が全くでないのに、夏休みになれば勉強したくなるなんて、なんという天邪鬼だろう。つくづく自分が嫌になる。ただ勉強は基本的に楽しい。ストレスへの耐性が低いだけなのだ。どうにかうまく向き合っていけばいいのだ。何年もうまくいかないし失敗経験ばかり積み重なってしまったけれどいつかうまくいくはず。そう思っている。

 初めてヒロコーヒーに来た時、Hと久しぶりに会った日だった。西宮北口駅の北改札で待ち合わせてアクタを抜けて来たのだ。数年ぶりに会った彼女は昔と同じように綺麗で、冬だったから黒いコートを着ていた。かっこよかった。私は多分休学している途中で、免許合宿に行った後だった。思えばヒロコーヒーの存在も同じサークルだったTに教えてもらったのだった。バンドをやっているバイト先の先輩もこのあたりの小学校出身だった。中高の同級生Mも少し離れた武庫川の方に住んでいるはずだ。彼ら一人一人の顔をひとしきり思い出して、またロシアの自然についての文章を読んだ。バイカル湖は自然が豊かでとても綺麗な場所らしい。

 同じ敷地にあるパン屋で食パンと塩パンを買って家に帰った。母は喜んでいた。

 

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