大学生になったらアルバイトをたくさんするのだと思っていた。
最初に始めたのはイベントスタッフ。初めて入ったのがインテックス大阪でのKANA-BOONのライブだった。『フルドライブ』や『ないものねだり』のような有名な数曲ぐらいしか知らなかった私は、観客の熱狂を見て、「売れている」バンドのすごさを思い知った。同時になぜかコレサワの『君のバンド』の歌詞を思い出していた。人とは違っていたいと昔から思っている私は、教室のみんなが聴いている「売れている」音楽ではなく、自分しか知らないような人たちを見つけるのが好きだった。大衆に迎合する音楽なんて良くないとも思っていた。でもKANA-BOONのファンが感動している姿を見ると、それも違うのかもしれないと思った。
最初のインテックスは特別で、基本的に家に近い甲子園で働くことが多かった。私が入る日に限って阪神は負けた。外野席の酔っぱらいは負けた腹いせに私に怒鳴り、金本が監督になって1年目は高山の新人王以外散々だった。シフトを決めるために毎週水曜日に担当者に電話するのが段々と面倒になって、ついに電話しなくなった。
次に働いたのは大学生協だった。あまり面白くないバイトだったけれど、サークルと授業以外に同学年の人や先輩と知り合うことができたのは良かった。表面的な関係だったかもしれないけれど、気楽でくだらない話に安らげたのも事実だった。COVID19でコミュニケーションが限定された今年、一見無駄にも思えるやりとりに救われていたことに気づいたのは私だけではないはずだ。ステイホームが叫ばれるようになって、誰かとの些細なやりとりを思い出すようになった。5月以降私は思い出に浸ることが多くなり、今までは感じなかったような感謝を記憶の中の誰かに抱くようになった。感謝を伝えようとしても、彼らは就職したり、疎遠になっていたりしていて、もう近くにはいないのだった。
今働いているのは障碍を持った人が利用するショートステイである。職場の人の優しさのおかげで、長く働けている。元々はサークルの先輩のつてで紹介してもらったバイトである。詳しくは書かないけどいくつかの素晴らしい出会いがあった。またどこかで書けたら書こうと思う。
ロシア語専攻に入ったのは偶然だった。浪人時代、別の大学の文学部を目指して勉強していた。外国語学部に向けた勉強をしていなかったので、受かるとは思っていなかった。滑り止めで受けた私大に行くのだと思っていたのに、受かってしまった私はロシア語を勉強することになった。
ロシア語を勉強するようになった私は、将来はVGIKで勉強できたらいいな、なんて軽く考えていた。VGIKというのはモスクワにある国立の映画学校で、まだ映画監督になりたいと考えていた私は、初めそれをモチベーションに勉強していた。YouTubeにはロシア語の映画がたくさん転がっていて、いくつかを観たけれど、字幕なしではちんぷんかんぷんだった。映画監督になれなくても映画業界で働けたらいいなとも思っていた。映画の字幕を翻訳したり、ロシアの映画情報を日本に紹介するような仕事に就くのもいいなと考えていた。でも先輩方はロシア語を使わないような就職先に進んでいて、私にとってそれは衝撃だった。せっかく4年ないし5年ロシア語を勉強するのに、社会でロシア語を使わない職業につくなんて。もちろんそれぞれの選択だし自由なのだけれど、ピュアな私にとってその事実は衝撃だった。急に冷めてしまった私は、将来仕事で使わないかもしれないに毎日ロシア語を勉強する意味は果たしてあるのだろうかと思った。この勉強に意味があるのだと、私ははっきり言えなかった。ある時から本当にどうでもよくなって、授業もサボるようになってしまった。今はよくわからない。入学したばかりの頃よりも柔軟に考えられるようにはなったけれど、これからどうしたらいいのかわからない。留学したいとも思うし、院に進むのもあり得る。就職はできればしたくない。しかし働かずしてご飯を食べていいわけがない。
「いろいろ感じることが多くて困ります」と言った私に、退官したロシア語のH先生は「大人になれば、そういうのは少なくなるよ」と言った。それはもう2年前のことで、その時と比べると私は大人になって、自分の感情がどのようなメカニズムで動くか少しはわかるようになったけれど、未だにコントロールするまでには至っていない。今日だってそうだ。文章が書きたいという気持ちが先走りして、もう10時間もぶっ続けで書いている。音楽が鳴らなくなってから随分経つ。もうすぐ夜が明ける。また来て欲しくもない朝が来る。
やりたかったのにできなかったことがたくさんあった。今やりたいと思っていることもいくつかはできないままだ。絵空事を浮かべて、期待だけ抱いて、でも実現することはない。私はいつも自分に裏切られる。
過ぎたこと、選ばんかった道、みな醒めた夢と変わりやせんな*1
【今日の音楽】
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