シゲブログ ~避役的放浪記~

大学でロシア語を学んでいました。関西、箱根を経て、今は北ドイツで働いています。B2レベルのドイツ語に達するのが目標です

#112 重力のない○○

 

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重力のない○○

 

トンネルを抜けていく路線バスとオレンジ色のライト

レンジの中で火花を散らすステンレスカップ

芝生でネコと遊んだ後のムズムズする鼻

大講義室を我が物顔で歩いていたネコ

プールの後の教室の気だるい感じ

お気に入りなのにクラスメイトに笑われていた可哀想な服たち

ブラインドの隙間からクラスメイトの背中を照らす光

逆光の中を進むフロントガラス

集まった罪のない烏と国道の真ん中で倒れていた鹿

それを眺めながら食べたリッツのビスケット

食べきれないほどバケツに詰められた不格好な牡蠣たち

深夜のマクドナルドのコーヒーと書きかけの文章

その年に初めて降ったみぞれのような雪

初めて見る単線の電鉄

誰もいない駅のプラットホームと赤いポスト

冬の朝のココアと帰っても誰もいないフラット

冬なのに暑いトマトのビニルハウス

腕の点滴を認識する朦朧とした脳みそ

誰かのお土産の甘すぎるお菓子と眼鏡の奥の笑っている目

鴨居に手が届くことに気がついた日

最寄りのスーパーマーケットまで40分も歩いた冬の日

銭湯で薬湯からなかなか離れない老人

盲いた老婆に顔を触らせる母親似の孫

お尻のやぶれたジーンズとカモメ

不明瞭で聞きとれない教官の声

I love youが言えない人たち

ごめんねが言えない祖父

ソフホーズは国営、コルホーズは民間だと口を酸っぱくして言った世界史の教師

繋がらない電話、やっと繋がっても本音と建て前。今切ったら次にかけるのはいつかはわからない。でももう切らないといけない。モザイク状に積みあがった記憶はまとまりのないまま流れてふとした時に顔を出す。瞳を閉じた布団の中、風呂掃除の手を休める一瞬、公園を横切って歩く帰り道。そもそもがまとまりのないものだからまたどこかに消えて、私はそれらを自由に蘇らせる術を持たない。いくつかの記憶は二度と蘇らなくて、同時にその記憶の中にいた誰かも私の中で死んでいく。忘れた記憶は宇宙の塵となって漂い、ほうき星によって掃き集められる。死んだ人だけがそれらの記憶を取り出していつでも眺めることができる。お空の高いところにあるその図書館で「ああ、あの時はこうだったね」と「こういうこともあったね」と死んだ人たちが確認して、また忘れる。そうしたことが何回も繰り返されてまた私が生まれる。

  

【ひとこと】

みなさんなら○○の中に何をいれますか?

 

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【今日の音楽】

youtu.be

 

 

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