シゲブログ ~避役的放浪記~

大学でロシア語を学んでいました。関西、箱根を経て、今は北ドイツで働いています。B2レベルのドイツ語に達するのが目標です

#153 今日の出来事

 今日はいくつも良いことがあった。
 早起きをした。コーヒー豆とミル、コーヒーポット、ドリッパーを持って学校に行った。
 コーヒーを淹れるようになってから、コーヒーを友達に淹れる、というのをいつかやりたいと思っていた。それが今日できた。卒業前にできてよかった。コロナ禍のコーヒーパーティー。詳細は書かないけれど、楽しかった。いつか将来の私が、大学卒業について振り返る時、必ず思い出すであろう大切な時間。

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 昼休み、卒業論文を印刷する。我らがロシア語専攻は「卒業論文はPDFファイルでオンライン提出」ということだった。提出期限は先週木曜日で、私は必死に「こしらえた」文章をWordファイルからPDFにして、早朝のネットカフェで提出した。隣には一緒に学部の6年間を過ごした悪友がいて、提出した論文について教授とメールのやりとりをしていた。論文を提出して清々しい朝になるはずが、友人の卒業に暗雲が垂れ込め始め、二人で不安な気持ちで新御堂筋沿いを歩いた。徹夜した脳と目に、日光が眩しかった。卒業がまた一つ現実味を帯びて、私にとっての世界は少し変わっていた。友人は晴れない顔をしていたが、その日のうちに救済措置があって彼の卒業論文は提出が認められた。どうやら一緒に卒業できそうだ。新御堂を走る車の音。誰もいないネットカフェのオープンスペース。冬なのにボタンを押し間違えて出てきたアイスコーヒー。彼と食べた王将の餃子。それが先週20日の木曜日。

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 オンラインでの提出とは別に、紙媒体でも提出しなくてはならなかった。専攻語の研究室に保管するためらしい。今年の卒業生は、外国語学部が新しいキャンパスに移ってから最初の卒業生になる。私たちの論文が新しい研究室に保管される。なんだか歴史の1ページ目になったような気がする。旧キャンパスにあった過去の卒業生の論文も移されて、まだ研究室にあるのだろうか。その上に私の論文も積み重なっていくのだろうか。外国語学部ロシア語専攻という枠を通り過ぎて行った過去の人たち。これからの人たち。みんな研究室の中で図らずとも歴史になってしまう。
 他の人の論文がどのようなものか知らないけれど、私の書いた文章は「論文」というよりも「エッセイ」や「調べ学習」に分類されるもので、正直、残って欲しくない。これは結果論だけど、私にとっての卒業論文は「書くこと」自体が大事であって「書く内容」は大事にならなかった。悔しい。悔しいけどもう提出してしまった。提出してしまった論文を4階のパソコン室で印刷している。パソコン室の雰囲気が好きだ。みんな何かしら勉強したり授業の資料を印刷したりしている。「大きな声を出してはいけない」という暗黙のルールがコロナ禍の前からあって、だから友人同士で座っていても喋っている人はあまりいない。一人でいても許される場所という感じがして、旧キャンパスでも新キャンパスでもよくパソコン室にいた。TSUTAYAで借りた映画をパソコン室で観たりしていた。ポール・ダノダニエル・ラドクリフの『スイス・アーミー・マン』や知り合いが出演した阪元裕吾監督作『ファミリー☆ウォーズ』なんかはパソコン室で観た。なんだか変な思い出。

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旧キャンパスの紅葉 学生寮近く

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世界時計と中庭、図書館

 
 生協に行って、卒業論文の表紙を買った。青い表紙。220円。去年卒業した友達がインスタに上げていた写真で見たやつだ。「卒論提出しました!」という文字と友人。その後ろの旧キャンパスの世界時計。階段から見下ろす大阪の街。エキスポシティの観覧車。山の上のキャンパスに吹く冷たい風。
 生協を出るところで見覚えがある人がいるのに気づいた。マスクをしていたり、髪型が変わっていたりで、友達なのかどうか確信が無くてジロジロ見てしまった。目が合ってようやく確信を持って話しかけられた。友人は博士課程になっていた。いわゆる「D1」だった。私が浪人し学部生をえっちらおっちら6年もやっている間に、ちゃんとしている人はちゃんと進んでいるのだ。彼女がブログを読んでくれているのを知ってびっくりした。後で調べたらFBでシェアもしてくれていた。嬉しかった。最近、ようやく反響が届くようになって、ブログを続けていてよかったなと思うことが増えた。わかりにくいことをうだうだ書いている、はっきりしないブログですが、これからもよろしくお願いします。感想とか頂けるととても嬉しいです。あ、あと、遠慮などせず、シェアもどんどんして下さい。お願いします。
 別々の高校だったのだけれど、課外活動で知り合って、大学の学祭でまた出会い直した。同じ学部なら、これからまた会えるなあと思っていたけれど、自分が大学に行かない時間があり、2020年からはCOVIDが流行ってしまった。でもまた今日会えた。今度もまたどこかで会えるはず。だからお互い元気でいましょう。

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新キャンパスのおしゃれなデッキ


 午後のゼミで卒論の試問があった。散々だった。卒論自体から目を背けるわけには行かなくて、できるだけ堂々としていたかった。でも、ゼミの教室の前でマイクを握ると、私の体はどんどん輪郭が歪んでいくような気がした。自分が喋っているのに自分が喋っていないような気分。ふにゃふにゃしてしまう。
 先生は優しかった。内容についての質問に加えて、「少し、エンジンがかかるのが遅かったですね」とか「誤字が多いので気をつけてください」とこれからのことも言ってくれた。感謝である。どうしてだか、私は卒論を書くのが怖くて、先生にもほとんど見せられずに済ませてしまったのだけど、今日もう一度反省した。自分も人も、もっと信じられるようになった方が楽なのに。

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 留学生のチューターの報告をしに、日本語教育の先生の部屋に行った。少しだけの報告が1時間半ほど話すことになった。新しく誰かと話す時はいつも楽しい。卒論を書きながら、私は卒論を書く「意味」について考えていたけれど、「人生は意味づけの連続」と言う先生の持論は面白かった。先生が日本語教師をしていた時の話や、ライフストーリー研究について聞くうちに時間はすぐに過ぎて、再履バス(キャンパス間移動バスの通称)の時間が来た。エモーショナルかつロジカルな人はいつも刺激をくれる。

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再履バス


 バスに乗る頃には、今日のことを書き残さないといけないと思っていた。どこから書こうと頭の中で色々考えていた。5限後のバスは混んでいて、満員だった。近くに立っているアラビア語専攻の2年生が期末レポートのことを話していた。「ロシア語は期末10000字らしいよ。それに比べたらアラビア語は楽っちゃ楽よね」
誰かの声に似ている気がしてちらりと見た。もちろん知らない人だった。
 始めは乗るのが嫌だった再履バスも、今では愛着が湧いている。卒業が近づいているからだと思う。もっとやりたかったこととか、話したかったこととかあったような気がする。でもいいや。こうやって日々が過ぎていく。

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普段見ない教室の天井もまじまじと見てしまう


 外国語学部のキャンパスから、メインキャンパスに着いた。思いつきで食堂で天津麻婆丼を食べることにした。図書館下食堂、通称「館下」の名物、天津麻婆丼は、天津飯に麻婆豆腐が載っているという高カロリーなメニューなのだけど、運動部や遅くまで学内に残って研究を続ける人を中心に、根強い人気を誇っている。大学一年目の頃に、キタくんという友達が、天津麻婆丼をどれだけ食べられるか競うサークルを立ち上げていたのを思い出す。同様の同好会、サークルの類は学内にいくつもあると思う。大学に行くのがしんどかった時に天津麻婆丼に助けられた時の記憶が不意に浮き上がる。6年も大学生をしているとキャンパスのあちこちに思い出が転がっていて、汲めども汲めども尽きない。天津麻婆の味にも、食堂の音にも、夜の学内の暗い道にも、ダンスサークルが活動するピロティにも、駅へと続く坂道にも、書くべき物語がまだまだある。たくさんの人とすれ違って、たくさんの人生と交差した。SNSを開くとそこにはまだ確実に「繋がり」がある。けれど、過ぎた時間も関係も、そうそう簡単に復元できるものではないと私は知っている。だからこそ思い出は大事だと思う。たくさんのかけらたち。胃もたれがするのは天津麻婆のせいだけじゃなさそうだった。

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 6年間本当に色んなことがあった。幾つかの切れ端。弱くても確かな繋がり。切れたと思っていた糸が浮かび上がる瞬間。相手のことを知れたと思う一瞬。もっと知りたいと思う気持ち、心の揺れ。そういうのを覚えている限り、私は大丈夫だと思う。私は生きていけると思う。生きている限りまた会える。ありがたい。

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