シゲブログ ~避役的放浪記~

大学でロシア語を学んでいる者です 文章を書くのを仕事にするのが目標です。夢は世界一周です

#152 萩、2日目


◎令和元年 8月29日
 眠い。すごく眠い。二度寝した。起きて9時。また寝て11時。「まずいチェックアウトしないと!」そう思い当たりガバッと起きる。そこにオーナーさんがやってくる。
「今日は無理やねー。通行止めで下関までは行けんね。もう1泊していき」
 そんなに昨日の雨は酷かったのか。ネットで調べたら通行止めのマークばかりだった。下関に行くにはどの道を通っても行けなかった。中国山地を突っ切って行く道も、あることにはあるが、雨の次の日の山道は怖いのでやめた。もう1泊することにしたと伝えると、オーナーのSさんは優しくて、今日の宿代をただにしてくれた。ありがたかった。私は旅程を調整する必要に迫られ、しばし地図アプリと睨めっこをした。下関、北九州、太宰府、別府、宇和島、松山、高松。できるだけ多く巡りたかった。一昨年に災害ボランティアで行った朝倉市にも行きたかったし、できることなら八女市の岩戸山古墳と、ちょっと足を伸ばして吉野ヶ里遺跡にも行きたい。別府で温泉に浸かる前に湯布院も探検したいし、大分の磨崖も見たい。行きたい場所がたくさんあるけれど時間は有限。だからしっかり考えないと。この西日本旅行が終わったら友達と韓国旅行に行く予定だった。釜山、慶州、ソウル、全州を周るつもりだけど、まだ移動手段やゲストハウスを調べられていない。あと、当然ながらロシア語もやらないといけない。休暇明けに運動動詞のテストを受けないといけない。うーん、頭が痛い。
 私は自分のキャパシティや疲労度を考えずに予定を組んで、いつも失敗している。2日くらい寝ないで平気だけれど、3日目と4日目が大変になる。でもあと先を考えずにいつも徹夜をしてしまう。よくない。迷惑をかけている人がたくさんいる。本当にすいません。
 一昨日も徹夜のようなことをした。出雲で友人と別れた私は、雨の中の9号線を走り浜田にあるジョイフルに入った。ジョイフル浜田周布店。そこで文章を書いたり寝たりして過ごし、また朝になって走り始めたのだ。けれども雨がどんどん厳しくなるのをみて、走るのをやめ、萩のゲストハウス「暁屋」に駆け込んだ。それが昨日の昼過ぎ。長髪で髭を伸ばした痩身の人が布団を運んでいて、それがオーナーのSさんだった。「この雨だからいつくるのかと思っていたよー!」と言われて、予約するだけではなく、電話もすれば親切だったなと思った。三田さんはずぶ濡れの私に、昼ごはんとして玉ねぎとゴーヤのパスタを振舞ってくれた。「シゲくんはいくつ?」と訊かれて、23歳だと答えた、「まだ10代に見えるね」と言われた。Sさんは柔らかな口調とイントネーションの人だった。聞くと郡上八幡の出身で、大学は姫路だと言う。案外近いところにいたのだと知ってなんか安心した。

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出雲大社

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ジョイフルで一夜を共にしたカエル
 昨日はゲストハウスに泊まるのは私しかいなくて、Sさんは私を萩の市内から離れた山の方にある阿武川温泉まで連れて行ってくれた。
 
 今日、2日目の萩の朝ご飯は、冷蔵庫から昨日買ったコロッケを2つ、それから土鍋のご飯。美味しい。Sさんは最後に「これ食べ」と言って塩昆布をくれた。潮風に吹かれる塩こん部長のイラスト。今日は山口から女の子4人が来るみたいだ。Sさんは電話で通行止めされていない道を教えてあげていた。一日、暇だなあと思った。宿にある漫画とか本とか読んで、日記を書いて過ごすことになりそうだ。つまらないなあ、と思っていたところにSさんが、金子みすゞ記念館に行かないかと誘ってくれた。12時になる頃に岐阜ナンバーのダイハツに乗って萩よりも10キロ西の仙崎に向かった。
 
 文学作品の舞台を巡るのがこの2019年の夏の旅行の目的だった。丸谷才一の『笹まくら』の舞台を巡り、林芙美子が生まれ育った北九州、直方を訪ね、仙崎と下関で金子みすゞにゆかりのある場所を訪ねようと思っていた。だからこのSさんのお誘いはとても嬉しかった。
 

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 山陰道を通れば仙崎まで一瞬だった。萩と仙崎を結ぶ国道191号線は土砂崩れで通行止めで、原付では仙崎にたどり着けないけれど、自動車なら山陰道を通れる。「美味しいパン屋があるから」と言ってSさんは仙崎の道の駅で車を停めた。海藻由来の酵母を使っているパンで、値段は張るが美味しいのだという。私はSさんに塩パンを買ってもらった。噛むほどに味が増えて美味しかった。ただ、連日、原付の運転中にガムを噛んでいたので顎が痛かった。パン以外にも、蜂蜜やジビエ、鯨やフグが売られていて、見ているだけで楽しかった。萩の暁屋の周辺と同じように、仙崎も漁師町で道が狭かった。仙崎駅から続く中心街は道幅がまだ広くて、そこに金子みすゞ記念館があった。   「金子文英堂」という看板があって、彼女の実家の文房具屋が再現されていた。
 不思議な感じだった。大体こういう場所にくる時は一人なのだけど、今回はSさんがいる。いつもなら目的地に向かいながらあれこれ想像したりして来るのだけれど、今日はSさんと笑いながらやって来た。なんだか目の前に金子みすゞが急に現れたような気がして、心の準備ができていなかった。

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 受付の女性と話し、文房具屋に並ぶ昔の雑誌や万年筆を見るうちに、ゆっくりと実感が湧いてきた。トーストの上でバターが溶けるようだった。色々と思い出した。尼崎の小学校にいた小学校低学年の時、お気に入りだったのは宮沢賢治金子みすゞだった。小学校5年生の時、クラスの前で選んだ詩を発表するという課題があって、私の好きな女の子が金子みすゞの詩を読んでいたこと。中学からは彼女の作品は子供っぽいと思っていたけれど、でも今こうして読み直してみると、すごいなあと思う。大人になってからも、子供の頃の感性を失わずに、虫や花、魚に愛情を注げるということ、それができるのはすごいと思う。記念館の展示では彼女の人生が詳細に記されていた。女学生時代のことや少し複雑な家庭環境、そして自死に至るまでの経緯が説明されていた。だいぶ長い時間展示を見ていて、Sさんを待たせてしまったかなと思ったけれど、Sさんも順路の最後にある、金子みすゞに関わった人のインタビュー映像を見ていた。
金子みすゞは感性が強いよなー」とSさんがハンドルを握りながら言って、二人でまた色々話した。一年後に迫ったオリンピックが話題に上った。ゲストハウスに泊まった誰かから聞いたというオリンピックに関する陰謀論が興味深かった。その誰かによると、東京オリンピックの中止は既に想定されていて、ロンドンで代替開催する準備が隠密に進んでいるらしい。「オカルトな話だけど、もし本当なら、何かしら大変なことが起きるってことよね」とSさんは言ったが、私はこのセリフを半年後に思い出すことになる。
 萩でたこ焼きを買い、ゲストハウスで2人で6個ずつ食べた。ゆるめで熱々だった。「大阪人っぽく一口で食べたいよね」なんてSさんが言って、二人で頬張った。コーヒーを入れてもらって日記を書くとあっという間に時間が経った。
 
 今日泊まる予定の女の子4人がやってきて、一気に賑やかになった。私は散歩がてら夕食の食材を買いに出た。浜辺の近くで子供が3人サッカーをしていた。誰かがこっちのボールを蹴って、蹴って返した。またボールが戻って来て、お互いの目配せがあって、一緒に遊ぶことになった。9歳、6歳、4歳のきょうだいだった。一番上のお姉ちゃんはバスケットボールをやっていて、バスケットボールのフェイントを教えてくれた。6歳の弟は髪が長くて毛先がパーマになっていた。「かわいいね」と言うとふくれっつらを作っていた。自分も誰かから「かわいい」と言われたらムスッとしていたのを思い出した。4歳は仮面ライダーのかっこいいおもちゃを見せてくれた。

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 突然かけっこが始まったり、おんぶをせがまれたり、久しぶりに「カンチョー」をされたりした。楽しかったけれど、子供の予想外の動きに疲れてしまった。日も暮れてしまって、別れる時に「また遊ぼうね」と言ったら6歳の男の子がぎゅっと抱きしめてくれた。なんだか泣きそうになった。
 3人のお母さんがおすすめしてくれたキヌヤというスーパーで買い物をして帰る。もやし、ピーマン、エノキ、胸肉で、蒸し野菜とピカタを作ることにした。ピカタは、卵と片栗粉の順番を間違えて、なんだかヘンテコなものができた。Sさんは玉ねぎを水にさらして鰹節と醤油をかけたやつと、そうめん、それに蒸し野菜を作って下さった。暁屋にいる時はずっとお世話になっている。
 海鮮を食べた4人組が帰ってきて、またみんなでわいわい話した。4人のは東京の大学で獣医になる勉強をしているのだった。山口大学での学会に出るついでに、県内をまわって旅行しているらしい。大学の同級生での旅行、羨ましい。
 宮崎県西都市出身の人がいた。大学に入るまで電車に乗ったことがなかった彼女は、上京した当初、切符を自分で買えなかったらしい。本当にそういうことって本当にあるんだ。ちなみに西都市には、この1年後古墳を見に行くことになる。
 本棚にあった古谷守の「わにとかげぎす」を途中まで読んで、お開きの時間が来ると2段ベッドに入って寝た。radikoのタイムフリーでオードリーのラジオを聴いた。

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菊ヶ浜
 
 
【今日の音楽】