シゲブログ ~避役的放浪記~

大学でロシア語を学んでいる者です 文章を書くのを仕事にするのが目標です。夢は世界一周です

#186 パリピになろう計画。序

これは300Barの近くにあったオイスターバー
 東京に着く度に、東京が苦手だと思う。小田急線で小田原から新宿。始点から終点まで。寝ていたら一瞬だった。経堂や祖師ヶ谷大蔵、下北沢。知り合いが住む街を抜ければもうそこは新宿。すでに体が重い。ゲストハウスで8時間働いて、お風呂に入って、そして荷物をまとめて箱根登山鉄道。今日は人が足りていなくて、罪悪感を感じながら退勤した。

深夜の東京駅。工事していた。
 東京に住む親友からは返信がない。忙しいのはいいことだと思って気にしないことにする。会いたい気持ちはあるけれど。東京に住む人は他にもたくさんいるから。でも誰に連絡すればいいのか迷う。本当なら全員と会いたい。でも時間は有限だ。脳内にずらりと並ぶ彼らの顔。連絡がとりやすい人、休みがとりやすいであろう人、忙しそうな人、高校時代以来連絡をとっていない人。会いたいけど、何て言えばいいのかわからない人。昔は仲良かったけれど最近のSNSはなんだか大変そうな人。正直全員に連絡したい。でも面倒なので数人にだけ。友達に久しぶりの連絡を取ろうとする時、決まってある映画を思い出す。『恋する惑星ウォン・カーウァイ監督作品。1994年香港。
 金城武演じる刑事が一晩中電話をかけるシーン。失恋した悲しさを埋めるため、誰かと話しながら飲みたいのだ。近い友達に電話していたのが、段々と関係性の遠い、昔の友達にも電話する様になる。しまいには名前も覚えていないような小学校の同級生にも電話する。東京に来て、誰かと予定を合わせて会おうと思う時、この映画の金城武を思う。ドラッグ・ディーラーを演じるブリジット・リンのことも一緒に思い出す。それからフェイ・ウォントニー・レオンも。

地元の駅の公衆電話。親の顔ほど見た
 金城武と違って私は電話をかけない。チャットもしない。
 友達がたくさんいるはずなのに誰1人にも連絡できない。誰かとずっと飲む、というのが少し怖い。年月を経て成長した彼らと自分を比較してしまう気がする。あるいは久しぶりに会った彼らに幻滅してしまう気がする。待ち合わせしても会ってすぐの15分で帰りたくなってしまう、なんてこともあり得る。

東京の夜は出会いがいっぱい?
 それなら割り切って、新しい人と会えばいいじゃん。そうやってどんどん新しい場所に行こう。飽きたら別の場所へ。汚いものが見えたら次の場所へ。ずっとそうやって生きているように。
 時々自分が心配になる。新雪を求めるスキーヤーが遭難するように、新しい刺激を求めてドラッグにハマる中毒者のように、自分もいつかどうかなってしまうんじゃないかと思う。
映画『スタンド・バイ・ミー』でリバー・フェニックスが言ったように、自分のことを誰も知らない、どこか遠くへ行きたいと、いつだって私は思ってきた。でもそれをずっと続けるわけにもいかない。いつか諦めないと。
 
 大きい新宿駅を歩く。なんとか西口から東口に出る。小田急から丸の内線へ。そして銀座。ようやく東京に体が慣れてきて、少し余裕が出てきた。箱根と違って人が多い。電車に乗る人がもの珍しくて面白くてまじまじと見てしまう。サラリーマンの疲れた肩。半袖半ズボンで乗っているおじいちゃん、ギターを担いだ青年。アプリで東京の地図を見ながら行きたい場所に行く。銀座コリドー街。

冗談抜きでナンパ目的の人がほとんどだった
「戎橋に匹敵するナンパスポットですよ」とコリドー街について教えてくれたのは同じゲストハウスの社員さん。正直、大阪の戎橋の比なんてものじゃなかった。本当にそこかしこにナンパする男性が溢れていて、最初から最後まで笑うのを我慢して歩いた。自分が普段しないからだと思うけど、みんなきちんとスーツを着ている様に見えたし、髪の毛もちゃんと整えていた。自分の来るべき場所ではないなーと思って歩いたけれど、こういう場所に慣れてないので、人を観察しているだけで楽しかった。そういうのも楽しみながら歩ける様になった。いつからだろう。
 
 6月から箱根のホテルでコンシェルジュをしていた。今でもゲストハウスで働きながら週に一度ホテルで働いている。ホテルではお部屋でご飯を出す。料理の紹介やドリンクのオーダーを取るのが基本なのだけど、それだけじゃつまらないから大抵いつも雑談をする。お客さんとの会話が盛り上がって、とても気に入られる時がある。仲良くなった後で、時々、私を見透かしたようなことをいう人がいる。「人を観察すること」が職業病になっていて、私に対しても何か言わずにいられない様な人達。そういう人に生き方や態度について教えてもらう時、とても嬉しい。思い出しても胸が熱くなるくらいだ。

「胸が熱くなる」のイメージ図
 8月にホテルで2泊されたお客さんに水津さんという人がいた。千葉県某市のタワマンに住んでいる人だ。2泊とも私が夕食を出したこともあって、とても気に入ってもらい、色々教えてもらった。頂いたアドバイスの中に「あがり症を治すなら、クラブに行ってナンパしまくれ」というのがあった。緊張している私を見て言ってくれたアドバイスだ。

色んな人の人生がすれ違う。その一瞬がとても好きだ
 別にナンパはどうでもいいけれど、クラブに行って、人と話すのはいいなと思った。普段出会わない人がいるだろうし、非日常的な雰囲気の中なら、自分の殻を破れるのではないかと思ったのだ。そういうことがあって、今日私はコリドー街に来て、ビルに入り、地下への階段を降りた。私が入ったのは、「300Bar」というところ。だから正確にはクラブではない。DJがいて、踊るスペースもそれなりにあって、談笑している人もいた。

一応画像を加工しました。バーの雰囲気を写した写真にいいのが一枚もねえ
 モヒートがないので、代わりにモスコミュールにした。どこの場所に行けばいいのかわからなくて、とりあえず突き当たりまで歩いたら、トイレの横かつDJの近くという変な場所に陣取ることになった。
 周りを見渡す。完全に浮いているということだけわかった。ノースフェイスの水色のフリースを来て、下はジーンズ。そしてインテリ風の金縁メガネ。肩掛け鞄はジーンズとシャツをリメイクして自分で作ったもので、中には英語版の『ワインズバーグ・オハイオ』と『コルシア書店の仲間たち』が入っている。このフロアの中で、シャーウッド・アンダーソンと須賀敦子がわかる人はいるのだろうか。どちらも私の好きな書き手だけど、わざわざバーに持ってくるべきものではない。

🎶
 周りは会社帰りの黒いスーツだったり、おしゃれな襟付きを着ている人ばかりだった。音楽も知らない曲ばかりだし(私が好きなジャンルは、ドリーム・ポップ、パンクロック、ポストパンク、オルタナティブ・ロック、ブリット・ポップで、どれもクラブではかからないものばかりだ)もちろん曲に対するノリ方もわからない。、体の動かし方も一人だけ何かしら違う気がする。でもだからどうだっていうのだろう。知らない音楽だとしても、音に合わせて体を動かすのは楽しいし、モスコミュールも美味しかった。ただ、文字通り毛色が違う人間が紛れ込んでいるのは間違いがなく、四方から視線を感じた。クールに見えたらいいなと思って、DJの人がディスクをチェケチェケするのをじっと見るふりをしていた。側から見れば、DJ志望の若者と思われたかもしれないくらいの、熱い眼差しだったはずだ。実際それは演技でもなくて、新しい曲へと移る時に、どういう作業をしているのか気になったし、ホールの様子を加味してどのように選曲するのかも気になっていた。でもキャップの下のDJの顔は暗くて、表情が読み取れなかった。緊張しているせいかお酒は全然回らなかった。

この地下にバーはありました
 30分ほど経って、飽きてきた。別にこのまま居続けるのも楽しいのだろうけど、でも何も進展がない。「私、一人でも楽しめるんです」という風を装って体を小刻みに揺らすのも限界が近い。誰かに話しかけようか、でも誰がいいのだろう。何度かチラチラ目が合う人もいるし、多分誰でも大丈夫なのだろう。でも怖いぜ、モスコミュールをごくり。

バーのトイレではいつも、『トレインスポッティング』でトイレの中に入っていくユアン・マクレガーを思い出す
 冷静になってみると、全く緊張しなくていいのだ。なにしろ、自分の目的はワンナイトではなく、ただただ新しい世界を知ることなのだから。何も気負う必要がない。よーし、そろそろ次のドリンクを頼みに行って、帰り道でレジとカウンターの間にいる誰かに話しかけてみよう。
 
 そんなことをうじうじ考えている間に誰かが私にぶつかった。ホールで一際目立つ踊り方をしている女の人とその友達。一瞬にして私の瞬間視聴率が上がる。そして下がる。少しだけ緊張して、でも大丈夫だと思い直す。確かに水津さんが言ったように、これであがり症は改善されるかも。
「ここは初めて?」
「ノースフェイス着てんじゃん!」
「どこから来たの?」
「箱根? 今日きたの?」
「西宮って兵庫よね?」
話すことはたくさんあるし、色々訊きたいこともある。みんな音楽で声が聞き取りにくい中で丁寧に教えてくれた。3人は大人になってからの友達らしかった。みんな東京出身らしく、いいなあと思った。東京で育っていたら見える世界が違っただろうなと思う。お笑いや芸術にももう少しアクセスしやすかったはずだ。

これは9月に行ったむつみ荘。好きな芸人が昔住んでいたアパート
 とにかく、3人のおかげでその夜が格段に楽しくなった。話しかけられる人が増えたし、他の何人かとも仲良くなった。とってもラッキーだったし、感謝しても感謝しきれない。そして、次は自分から誰かに話しかけてみようと思った。

こういう街路樹としての柳の木は関西にはあまりないかも

まだ誰かが働いている
 やはり自分は人間が好きなのだと、夜道を歩きながら思った。ワンナイトどうこうよりも、たくさんの人に色々なことを訊きたいと今日はずっと思っていた。どうも自分の知識欲は、性欲を圧倒的に上回っているらしい。「この人可愛い!」とかじゃなくて「このグループ、どういう関係なんだろう?」とか「この人たち、今何考えているのかな?」とか今日もそういうことばかり考えていた。もっとこういう場所に通ったりしたら自分はどう変わるだろうか。自分に自信は少しつくのだろうか。そんなことを考えていた。
 高揚感と解放感に包まれたまま夜の東京を歩いていた。もうすぐ新月になる細い月がビル街を見下ろしていた。3人のおかげで、とてもいいきっかけになった夜だった。感謝である。次は自分の番だ。
 
 
【ひとこと】
これは昨日の夜の出来事をもとに作った文章です。色々ときっかけになりそうな夜でした。昨晩のことを思い出して、胸が熱くなったりすることもこれからあるでしょう。
誰かにとってこの文章が意味あるものであればいいなあと思います。感想とかコメントとかあれば送ってください。
 
 
【今日の音楽】

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