時間が止まったように感じられることは?
自分だけが暗い穴を落ちていくのに、世界は私には気づかないで昨日と同じ顔で回り続ける
不公平だと思ったことは? 忘れてしまったの? あんなにも怒っていたのに
あの頃、あなたは私の側にいて、私と同じように世界に憤っていた
短い春と乾いた夏が過ぎて、あなたが遠くに行ってしまったことを私は知った
何通かあなたから手紙が来たけれど、何一つまともには読めなかった
途中まで書いた便箋がうず高く積み重なり、時々雪崩のように崩れて床に散らばった
私は誰に見せるわけでもない文章をノートに書き続け
ついには積み上がった紙で家を作り住むことにした
秋が深まるまでに紙でできた家は冷えるようになっていた
北風が壁から紙を剥がして持って行った
二度と戻らない文章を思って私は泣いた
そのうち本当に寒くなると私は1枚1枚ノートを燃やして暖をとった
あの人の思い出が、あの日の思い出が、ひとつまたひとつ失われていく
その冬最後の寒波が去ると手元に残ったのは10枚の紙きれだけだった
雪解け水が小川を作り、いくつもの小川があつまって一つの大きな川になった
私は10枚の紙で船を折り水に浮かべた
海までゆくのだと思った
私にはもう戻れる場所がなくて、だから新しい場所に行かなくてはならなかった
その場所ではあなたの思い出は必要ないだろうと思った
【今日の音楽】
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