会場はバクーだった。そうあのバクー。アーセナルがチェルシーにボコボコにされた18-19ヨーロッパリーグファイナルの舞台。アゼルバイジャンでの試合ということでアルメニア人のムヒタリアンが入国できなかった決勝戦。ペトル・チェフはこの試合を最後に現役を引退し、アーセナルのユニフォームを、ヘッドギアを外した後で脱ぎ、以降チェルシーのスタッフとして働くことになる。
スポーツを利用して政府の評判を上げるスポーツ・ウォッシングの象徴とも言えそうなバクー・オリンピック・スタジアムは、快晴の下、現実のものではないみたいにきれいだった。アナウンサーも解説の人も「いいスタジアムですねえ」を連発して、なんだか複雑な気分だった。立派だけどピッチと座席の距離が遠かったりして「いいスタジアム」とはあまり思わない。
あの日のアーセナルにいたジャカが今回もスイス代表としてバクーの嘘みたいに美しいスタジアムの真ん中にいた。スタジアムに向かうバスや、その前の飛行機や空港でやっぱり負けた試合のことを思い出したりするのだろうか。ウェールズ代表の10番ラムジーも当時はまだアーセナルの選手だったのだけれど怪我のせいで決勝戦は出られなかった。調べたらウェールズベンチに座っているイーサン・アンパドゥも18-19のEL決勝でチェルシー側のベンチに座っていたみたいだ。
試合開始時にキャプテン同士ということでジャカとベイルが握手しているのを見て、なんだか泣きそうになった。ジャカはアーセナルを退団してモウリーニョが監督に就任するローマに移籍するという噂があって、報道を見るとどうも確実みたいだ。なので来期のアーセナルの中盤にアルバニア系(コソボ系)スイス人のグラニット・ジャカはいないかもしれない。部屋のWi-Fiが弱くて、映像の何度もぼやけたけれど、ジャカがボールを持ってスルーパスを狙う姿はこの5年何度も見てきたので、すぐにわかった。ベイルも引退するかもしれないみたいなことが言われているし、前シーズンはトッテナムでプレーしていたとはいえローンの身だから、夏のバカンスの後もロンドンにはいないかもしれない。こうやっていろんなことが変わっていくんだろうな。この試合のラムジーもEURO2016のような輝きを持ててなかった。
試合前の予想は1-1の引き分け。だけどどんな選手がいるのか知らないし、スイスに対してウェールズがどこまでやれるのかわからなかった。案の定、変な試合だった。
ポゼッションはスイスで、前半のほとんどはスイスボールだった。ベンフィカのエースセフェロビッチがシュートをことごとく外していた印象。ウェールズはカウンター狙いでマンチェスターユナイテッドのジェームスが数回抜け出して、2メートル近いムーアめがけてクロスを上げていた。
30分、スピードに乗ったダン・ジェームズをスイスのディフェンダー、ファビアン・シェアがたまらず倒してこの試合最初のイエローカード。ニューカッスルユナイテッドのファビアン・シェアは好きな選手なんだけど、なんとなくいつもついてない気がする。途中出場からイエローを2枚もらって退場したり、交代枠がなくなった状態で怪我をして運び出されたりとかそういった感じである。今日も後半の頭にはムーアのファウルを受けて倒れたりしていた。長髪の時期も好きだったけれど短髪にしている最近の髪型もかっこいい。
それからこの試合は隠れた名ゴールキーパー対決でもあった。レスターシティーのダニー・ウォードとメンヘングラートバッハのヤン・ゾマー。絶対的な守護神カスパー・シュマイケルの陰でセカンドキーパーとして修行僧的キャリアを送るウォードと、ブンデスリーガで200試合以上に出場し続けているゾマー。ムーアのヘディングを防いだゾマーもすごかったし、ウォードも後半シュートを何本も止めていた。気のせいかもしれないけどウォードのフィードキックがシュマイケルと似ていて感動した。
49分にコーナーキックをエンボロがヘディングで沈めスイスが先制点。カウンターの応酬が続いたあとなんだかんだあって、74分とかにショートコーナーからウェールズの巨人ムーアが決めて1-1。その後お互いに見せ場は作り、セフェロビッチとの交代で入ったガヴラノヴィッチがシュートを決めるもオフサイドで取り消しになるなど、見ていて楽しい試合だった。両チームともいいチームで今後の戦いが気になる。スイスは先制したのだからここで勝ち点3を取って次節のイタリア戦に臨みたかっただろうけれど、勝ちきれなかった。ポゼッションは65%、シュート数も相手の2倍の18本放ったのに決めきれなかった。逆にウェールズは次のトルコ戦に勝てばグループリーグの勝ち上がりが見えてくるだろう。
個人的MVPを上げるならやっぱろエンボロ。後半の立ち上がりにドリブルでスルスルと抜け出していくのはすごいかっこよかった。間違えてアーセナルに来てくれないかな。ジャカはボールは持てていたけれどウェールズの帰陣が速くて決定的なパスはあまり出せていなかったように思う。次のイタリア戦、その次のトルコ戦でジャカが輝く試合が見たい。
裏MVPみたいなのがあるとしたらセフェロビッチ。前半のどのシュートも難しいものばかりだったけれどどれか一つでも入っていたら全然違う試合になっただろうと思う、エースが決めればチームも乗ってくるだろう。セフェロビッチ、同じ左利きの長身ストライカーということでアタランタのイリチッチと時々混同してしまう。髪型も似ているし。イリチッチはスロベニア代表なのでEURO2020には出ません。スロベニアとスロバキアも紛らわしいけど、オブラクとハンダノビッチというGK大渋滞チームがスロベニア、ハムシークとクツカを中心にEUROに進んできたのがスロバキアです。お間違えなきよう。落ち目のミランで奮闘してくれたクツカと、結局ビッグクラブには行かずナポリにとどまり続けたハムシクの姿を見られるグループEが楽しみです。
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