シゲブログ ~避役的放浪記~

大学でロシア語を学んでいました。関西、箱根を経て、今は北ドイツで働いています。B2レベルのドイツ語に達するのが目標です

#178 定点観察伊坂幸太郎(1)『PK』

このコーナーは、伊坂幸太郎を2021年から読み始めた私が、伊坂幸太郎の作品を読み進めるごとに備忘録を残していくという企画です。あまり下調べなどはせず、感じたことをそのまま書こうと思います。
記念すべき第1回は『PK』です。講談社文庫から出ているものです。

 

 まさかのSF。今まで伊坂幸太郎作品は探偵や大学生が出てくるものしか知らなかったので、少し驚いた。本のタイトルにPKとあり、序盤からワールドカップ予選の描写が出てくるので、サッカーに関するものだと最初は思った。でももちろんそんなはずはない。伊坂幸太郎は裏切ってくる。次には「大臣」と「秘書官」なる人物が登場し、よくわからなくなる。文章にAからEまでの英字が振られていて、Aは2001年のW杯予選の試合PKを獲得した日本代表フォワードの小津と幼馴染のミッドフィルダー宇野のやりとり。Bは三軒茶屋に住む作家の家庭が描かれ、妻、と息子が登場する。その息子が成長して大臣になって秘書官とやりとりするのがC。これは一応現在という設定で、2011年の出来事らしい。Dは例のPKから半年経った後の新宿の居酒屋で、男と女がW杯予選について話す。PKと聞いて「ペナルティーキック」ではなく「サイコキネシス」を思い浮かべる女の人。EはPKから17年前の小津と宇野の少年時代の出来事で、新人議員だった大臣と彼らの人生が交差することになった事件。この5つの時間と場面が変わるがわるに登場して、物語が進んでいく。と思ったら80ページくらいで「PK」は終わってしまった。
 
 ちゃんと目次を読んでいなかった。『PK』は3つの中編「PK」「超人」「密使」から構成されていた。2002年のW杯は「PK」ではフランス大会だったけれど「超人」では日韓大会。私たちの世界と同じである。ただ、東京レッドジンジャーズなるサッカーチームがいたり、全く同じ世界というわけではなさそうである。ちなみに「密使」にサッカーの話題は出てこない。
 
「PK」に登場する作家は、謎の人物によって、文章の改変を求められている。そのままの文章が世の中に出ると、歴史が変わってしまい、とんでもないことが起こるのだという。「超人」に登場する本田青年も自分の決断が世界を変えてしまうかもしれない可能性に悩んでいる。
 
 自分の決断が、決断とまでも言えない些細な行動が、世界を変えてしまうとしても、大勢の人間はそれについて自覚しない。インドアな私は決断を下すことが苦手で、全てのことを後回しにして生きている。それは「家から出ない」ということは「後回しにする」という決断をしたということなのだけれど、実際の私はその決断について全く自覚的ではない。家にいることにしたという決断。今日家で過ごしたという時間は、何かしらの将来を変えるのだと思う。
 
「PK」「超人」「密使」は、ある出来事がそれからの世界を変えてしまうことに気づいた人の話である。現在から過去を見て、あの行動がターニングポイントだとわかる人は少ない。見えない力が動いているように思える時も実際にあるし、この小説みたいに、みんなが気づいていないようなヒーローがいて、世の中の平和が保たれていたらいいなあと思う。でも実社会の正義のヒーローは「密使」に出てくる社長が言うように、決してスマートではない。交渉や取引、人脈や世論調査といったものをコツコツとできるのが正義なのだと思う。でもそれって誰に対しての?

 〈メモ〉

「PK」
大臣:
作家:大臣の父。三件茶屋に住んでいる。
秘書官=次郎君
佐藤課長:
飯田氏:
小津:サッカー日本代表フォワード。指導者ライセンス取得のための海外での仕事中にタイフーンに巻き込まれて死亡
宇野:同ミッドフィルダー。PKの2ヶ月後に覚醒剤中毒の男に殺される
 
「超人」
三島:作家。二子玉川の戸建に住んでいる。
田中:実用書しか読まない。浮気が原因で妻と別居中
本田:警備会社の営業
居酒屋で大臣に絡んだ若い男:
青い服と赤いマントの男:
 
「密使」
三上:戦隊ヒーローのスタント
私:
青木豊計測技師長:
 
 
【今日の音楽】
 
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