シゲブログ ~避役的放浪記~

大学でロシア語を学んでいました。関西、箱根を経て、今は北ドイツで働いています。B2レベルのドイツ語に達するのが目標です

#174 ミスドで大学生活を振り返ろう(5)大阪編

 私とミスドが出会ったのは尼崎の駅前にある伯父と伯母の部屋に居候していた頃です。あの頃、彼らが楽しそうにミスドの箱を持ち帰り、ドーナツをお皿に配るのが楽しみでした。当時の伯父は資格の勉強をしているものの、社会的には無職で、生計を立てていたのは伯母でした。彼ら夫婦は何か良いことがあるとドーナツを買いに行き、みんなで食べるのでした。それは、本当にささやかな楽しみという感じで、暮らし向きが良くなった現在に思い出しても、うっとりしてしまうような時間でした。後から生まれてきた従姉妹たちはあれを経験していないと考えると少し複雑な気分になります。
 きっと辛い日々だったと思うので、あの頃に戻りたいと家族の誰も思っていないでしょうが、時々懐かしくなります。あの頃のミスド原田治とコラボしていて、みんなでドーナツをたくさん食べて手に入れたオサムグッズのお皿が私たちの食器棚にはあります。
 
 
 
十三西口ショップ

神戸方面行きのホームから近い方が西口

売店はラガールショップからアズナスと変わり、今はローソンとなっている
 西口のミスドファンダンゴ側にある。あるいはシアターセブン側とも。ミスドは今は無くなって、跡地にはマクドナルドができた。ライブハウス、ファンダンゴも堺に移転してしまった。急速に拠り所が消えた気がして、何か悲しい。

早朝の十三西口

ホドロフスキーオールナイト!
 西口のミスドとの思い出はシアターセブンとの思い出。よく覚えているのは2018年の2月。休学が終わるころ。その頃、アレハンドロ・ホドロフスキーというチリの映画監督にはまっていた。シアターセブンで彼の作品のオールナイト上映会があった。上映されたのは3本。『エル・トポ』『ホーリー・マウンテン』『リアリティのダンス』
 3つ目の『リアリティのダンス』が一番観たい作品だった。監督の自伝的作品で、チリ北部の港湾都市トコピージャで育つ監督の幼少期の話で、最新作『エンドレス・ポエトリー』に繋がる前日譚でもあった。
 
 正直『エル・トポ』も『ホーリーマウンテン』は内容はほとんど覚えていない。『エル・トポ』はガンマンが主人公の神話的な作品で、『ホーリーマウンテン』は延々と詩的な映像が続いた。物語があるのかないのかわからなくて途中で睡魔に負けて寝てしまった。2つとも私には解説が必要な映画だった。聖書に詳しければもう少し楽しめたのかも知れないと思う。未だに聖書は読めていない。

オールナイト前の腹ごしらえ
 オールナイト上映会なのだから、眠くならないようにコーヒーをたくさん飲んでおこうと思って、ミスドに入った。寒くて、奥の方のトイレに近い方の席に座った。40代の女性が二人、近くの席で話していた。彼女たちは同じ高校の同級生で、何年かぶりに会っているようだった。同級生の安否や近況を3時間以上も確認していた。それは楽しそうであった。会話の端々から滲み出る生活の香りや、人間関係の歴史が、盗み聞きしている私の心を揺れ動かした。彼女らの話を聴きながら私は親友のことを思った。親友と会ってミスド焼肉屋で繰り返す会話の先に、この二人の会話があるような気がした。今でも時々あの寒い日のミスドを思い出す。知らない人の高校時代の話を聴いて、私は我々の将来について想像していた。私も彼も、まだ関係は続いているけれど、連絡する頻度はだんだん減ってきた。いつか数年ぶりに会って、あの日の二人のように話すのだろう。

淀川
 オールナイト上映が終わって早朝の十三の街に私は吐き出された。燃え殻のようになった繁華街。灰色と紺色の間にある空の色。淀川沿いを歩いて帰った。
 
 
 
十三東口ショップ(ショップNo.0555)

外が見えるのが良い

 たくさんの人と行った。ロシア語の同級生。バイトが同じだった人。いなくなってしまった人、好きだった人。散歩の終わりに寄ることが多かった。なんだかんだ思い出のある場所。西口のミスドが閉店になったから、東口のミスドを使うことが多かった。東口も西口とはそんなに大きくは変わらなくて、やはりにぎやかな商店街がある。ラーメン屋がいくつかとドラッグストアがあって、西口よりも人の生活が感じられる気がする。

十三周辺は細い路地があったり急に高級そうな店があったりして面白い

商店街の中にある店

 東口のショップは駅前の角に立っていて、2階に大きな窓がある。なので行き交う人が見える。阪急の線路の下の少し低くなっているところから出てくる自転車や、パチンコ屋の前で座っている男の人たち、スーツ姿で足早に歩き駅へと吸い込まれる人。いろんな人がいて人間観察をしているだけで楽しい。大学生活最後のセメスターは十三を経由する定期券だったので、授業が午後からの日は早起きして授業前に寄ったりしていた。誰もいないミスドの2階に流れる雰囲気が好きだった。

これも東口から少し歩いた場所
 開業してすぐにコロナで閉業したゲストハウスがあって、そこでのイベントの帰り道に寄ったこともあった。そのゲストハウスがあったのは一瞬なのだけど、そのイベントのおかげで未だにつながっている人がいる。不思議だ。

ミスドの階段から見える十三駅
 
 
福島大開ショップ(ショップNo.1484)

阪神淀川駅のホーム

駅構内から

お店の外観
 去年の10月に一度だけ行った場所。淀川の近くにある。知名度も低い阪神淀川駅という駅の近くにある。その名の通り淀川沿いにある駅で、何かしらの工事をいつもしている場所。去年の秋から私は橋や高架が好きになっていて、青い空を横切る高速道路がカッコよくて、何枚も写真を撮った。駅前にあう商業施設の1階にミスドはあった。別になんてことない駅前のなんてことない午前。もう10時なのに店内には朝刊を読むお婆さんしかいなかった。私はぼんやりと文章を書いて、昼過ぎまでいた。

オールドファッションと苦目のコーヒーが美味しいのだ

むぎゅっとドーナツも美味しいのだ

 

 交通事故で入院した後で、リハビリのためにひたすら大阪市内を歩いている時期だった。この日も午後の大阪の街を歩いた。確か友達のお母さんに教えてもらった野田の古本屋に行った。林芙美子を買ったと思う。まだ読んでいない。

 
 
福島ショップ(ショップNo.0008)

踏切とミスド

少し離れた南側にある天満宮金木犀が綺麗
 大学のサークルにいた2016年と17年。毎月2回、土曜日にサークル全体のミーティングがあった。
 私の大学は、中之島にも施設を持っていて、そこでミーティングが開かれることがあった。何度か遅刻し、何度かみんなの前で発表した。発表する日に遅刻したこともある。サークルの先輩がセミナーだか勉強会のようなものを開いていたこともあった。
 自宅からは福島駅で降りて中之島まで歩くのが一番リーズナブルだった。ここにもミスドがあるのだからいつかここでもドーナツを食べたいなと思っていたが、結局まだ一度も行けていない。
 サークルのミーティングの後も、みんなと梅田まで歩くことが多かった。福島で電車に乗っても梅田で電車に乗っても時間も料金もそんなに変わらないのだ。リハビリのために大阪や神戸を歩いていた時も、ミスドでコーヒー飲む時間があるならもっと歩きたいと思って、福島のミスドには入らなかった。梅田で誰かと出会った帰り、時々野田や福島、場合によっては尼崎まで歩いたりするのだけれど、途中でいつも福島と野田のミスドに入るか迷う。迷ってやめる。
 サークルに所属していた頃を思い出す。あの頃は尖っていたと思う。人とは違う自分を意識するあまりに、突飛なことを言って周りを傷つけた。結果的に自分の可能性をも狭めてしまったように思う。もったいなかったと思うし、今からでもやり直したいと時々思う。本当に時々。

リハビリのための散歩では靱公園にも良く行った。
 
 
梅田東ショップ(ショップNo.0113)

 メガネを買ってから行った。大阪の街を歩くようになって、なんとなくここの場所もわかるようになった。大阪の東側は結構難しくて、今でも梅田から梅田東ショップに最短距離で行けるかどうかは微妙である。ミスタードーナツは都会の中心ではなく少し離れた場所に店舗を置く傾向がある。ここもそう。梅田とはいえ、周りにあるのはオフィスやマンション。誰かの会社からの帰り道にあるショップなのだと思う。
 卒業祝いということで母親に難波でメガネを買ってもらい、定食を食べ、散歩がてらここまで歩いた。歩くのが好きな人が親でよかった。これも時々思う。二人でロイヤルミルクティーを飲んだ。

中央公会堂
 
 
 
梅田阪急三番街ショップ
茶屋町ミスド」と単に呼んでいた。浪人時代は悲しいことよりも楽しいことの思い出が多い。きっと充実していたからだと思う。時々、授業後に友達と予備校を抜け出してここのミスドに行った。かっぱ横丁なる通路があり、水槽がいくつかあって、汚い水質の中に魚が泳いでいた。ミスドがあった場所には、今は別のカフェが入り、水槽も無くなって阪急沿線の施設を表現したレゴブロックが飾られている。
 親友とここでも何回か話した。高校時代の話を何度となく蒸し返し、同級生の悪口を言ったりした。古典の予備校教師のことで軽口を叩いたり、世界史の先生が教えてくれた単語の覚え方を共有したりした。本当にとりとめもない話。いつかオノヨーコの話をしていたら、ヨーコそっくりのマダムが近くの席について笑ってしまったこともあった。ここでの思い出を全部書くと本当にキリがないけれど、思い出の中の大事な場所だ。大学に入ってすぐ茶屋町ミスドは無くなってしまったけれど、まだ私の中には残っている。彼も覚えてくれていたらいいけれど。
 
 
【今日の音楽】
十三ファンダンゴで昔みたライブ。Not Wonkは苫小牧のバンドです。
 
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