シゲブログ ~避役的放浪記~

大学でロシア語を学んでいる者です 文章を書くのを仕事にするのが目標です。夢は世界一周です

#168 人が交差する。この大都会で

 今いるゲストハウスは7泊で9000円しない。わお。東京にそんなところがあるなんて。いや、東京だから安いのかも。今日で3日目だけど色々な人がいる。ゲストハウスの出会いは一期一会で、最初に話し始める時からして、すでに切ない。オンラインの面接で毎日のように違う人と話しているからそんな風に思うのかもしれない。
 
 東京には就活で来ている。第一志望の御社の試験は会場にてオフライン。午前9時30集合なら前泊しようと思って前日はホテルに泊まった。一泊5000円弱、汐留と新橋の間にある12㎡の空間。COVID19が酷かった頃の東京で、感染者を受け入れていたという狭いスペースで、ほとんど眠れずに過ごした。一般常識と作文だけなので、ほとんど予習することもないからすぐに寝ても良さそうなものなのに、寝坊するのが怖くて寝れなかった。おかしな話だ。大事な予定の前日は、寝坊することが怖くて寝れない。負のスパイラルに入ってしまう。

 早稲田大学にいる。友達の大学。一緒に講義を受けようと思ったのだけれど、直前に休講になったらしい。大隈重信銅像銅像の周りに大学生がたくさん。私の大学とはかなり雰囲気が違う。みんな楽しそうに見える。ベンチの数が多い大学はいい大学。ベンチの多い街も。私の大学ではないのに道を聞かれる。ノルウェーからの留学生2人。日本語センターのような場所に行きたいらしい。地図で探す。案内する。北門を出て右手にあるオレンジ色の建物。22号館。私は適当に見つけた自習スペースで友達と待ち合わせる。文章を書く。周りにいる大学生は自分より少し年下なのだろうと思う。同じように就活をしている人もいるのだろうと思う。

 ゲストハウスを出る。歩く。少し雨模様。緑が綺麗。昔は川であっただろう水路を見る。花一つ二つまだ咲いている桜の木。生い茂る薄緑の葉。駅の反対側に出る。オンライン面接のためだけに滞在するネットカフェ。面接の5分前になってzoomを起動して、待機室に入る。緊張。画面の写りを確かめて、カメラの高さを調整したりネクタイを綺麗にしたり。緊張する。でも普段話せないような人と話せるのは貴重な経験だから、と言い聞かせる。画面が切り替わる。怖い。でも頑張らないと。もう決めたことなのだ。

 オンライン面接の後は、いつも変な高揚感がある。話したいことを話せたと思うけれど、伝わったかどうかは別の問題だ。今回もまたロシア語専攻であること、ロシアの留学について訊かれた。「もしロシアに留学できるとしたら行きますか?」「ロシアの大学院でジャーナリスト学部に入りたかったようですが、ロシアと私たちのローカル局の間にギャップのようなものはありませんか?」
「お金が必要なんです。そしてまだ興味のあるような仕事をしていたいです。したくもない仕事をして疲弊したくないです。将来についていつも希望を持っていたいのです」
 お祈りメール3通。今週もまた増えるだろう。シゲ様の今後のご活躍をお祈りします云々。絶対活躍したるねん。なんならもう活躍しとるわ。メールをごみ箱に入れる。
 
 また今日もオンライン面接。思っている以上に和気藹々とした15分になった。ウクライナの問題について訊かれたし、大学に6年もいたことについても質問された。今までの面接ではそこまで訊いてくれなかったから、私自身に興味を持ってもらえている感じがした。嬉しかった。ただ、地方ローカル局の面接にそのような会話が必要だとも思えないから、多分落ちているのだと思う。
 就活しながらよく思い出すのは『千と千尋の神隠し』の序盤。ボイラー室を出た千尋が湯婆婆のところを訪ねるシーン。「ここで働かせてほしいんです」って言うシーン。私がこれからもらえるどんな仕事も、八百万の神々をもてなす油屋の仕事と比べたら遥かに楽だろうけれど、背に腹を変えられなくなっているのは千尋と同じ。

 友達と会う。中学の同級生たち。大学構内から高田馬場まで歩く。緩やかな下り坂。中華料理とラーメン屋と日本語学校がたくさん。色と光もたくさん。夕暮れ時の空の色。高田馬場のロータリーには待ち合わせしている人がたくさんいた。区画に押し込められたスモーカーたちと、区画外で吸う人を区画内に入れるおじいちゃん。「シルバー人材派遣」という文字が背中に見える。

 3人が揃って、残り1人を待つ。中々来ない。もう電車から降りたものの迷っているらしい。見えているものを教えてもらう。タリーズ、ロフト、自遊空間。たくさんの看板。出口の番号。見覚えのある人影が見えて自信はないけど思い切って手を振る。向こうも振り返す。なんだほとんど変わってないじゃん。
 山手線の下をくぐって駅の西側へ。前の方から電話をしながら走ってくる人とぶつかりそうになる。西側と東側で少し雰囲気が違う。ベトナム料理とミャンマー料理の看板が見える。今度友達と行く中央アジア料理はここら辺だったなと思う。
 焼きとん。なんて関西じゃ聞いたことのない料理だ。豚のホルモンが串焼きになって出てくる。友達が慣れた手つきで串から肉を皿に移す。玉ねぎと胡麻油と豚のレバー。美味しい。すごく美味しい。昔のことをいくつか振り返って、何年生の時に誰が同じクラスだったかで盛り上がる。担任が今何してるとか、三者面談がどうだったかとか、友人の近況とか。
 今から来れそうな友人と電話。電話がつながって、また一人増える。ついでに場所を変えることにする。今度はくら寿司。お茶の粉を入れる人、水を持ってくれる人。トイレに行く人。タッチパネルに戸惑う。選べない。みんなはどうなんだろ。いつかと同じようにねぎま軍艦を食べる。醤油を垂らして食べる。美味しい。
 
 くら寿司のみかんジュースが美味しいと言って一人が選ぶ。もう一人もそれがいいと言ってみかんジュースが2杯運ばれてくる。回転寿司のレーンに近い子が結構食べる。私も食べる。コーンの軍艦を取ろうとしてやめにする。親友が回転寿司に行く度にコーンの寿司を食べることを思い出す。彼も東京にいる。西の方。今回の滞在ではまだ会ってない。最近連絡が途切れがちで少し気になっている。
 
 もう一人、別の友達と私は会う予定で、あと30分で席を抜けることにすると言う。その友達もこの席に呼べばいいじゃんって誰かが言って、私は彼に訊いてみる。彼がエレベーターから降りてこっちに来る。不思議な感じ。座る。一人づつ紹介する。みんなのことを改めて口にするとなんだか恥ずかしい感じがする。私の中学の同級生と、また別の友達が同席しているのはなんか変な感じ。でも面白い。

 第一志望の御社の試験は無事に寝坊せず受けれた。一般常識と作文と適性検査。対面で試験をする会社は今時珍しいと思うけれど、私としてはその方がありがたい。筆跡や鉛筆の勢いで伝わるものもあると思っているから。結果は来月の頭に郵送で送られるらしい。落ちた人にも結果が通知されるのかは知らない。
 
 都電荒川線で本を開く。路面電車。東京にもトラムがあるなんて。驚く。前から乗って後ろから降りるスタイル。坂の多い東京をスイスイ進む。時々揺れる。意外と人が多い。本を閉じる。黄色い表紙の本。ベンガル系の両親の元、アメリカで生まれた主人公。彼が生まれる前の両親のエピソード。幼少期のベンガル人コミュニティとパーティー。時々帰るカルカッタ。大人になるにつれて感じるアイデンティティの葛藤、両親とのずれ。彼の人生を通り過ぎる人。人。

 大学構内を案内したノルウェーからの留学生のことを考える。一人はポーランドにルーツがあって、もう一人は中国からの養子だった。彼らも少なからず何かしら抱えているのだろう。生きていたら付随する面倒なことの数々。別に国籍とかルーツとかだけでなく。外見とかわかりやすいことだけでなく。
 新宿駅東口。金曜日の夜。近くでプロ野球の試合でもあったのかというほど人がいる。地元の甲子園駅を思い出す。タイガースの試合の後は黄色い服を着た人で駅が埋め尽くされるのだけれど、今構内を歩く人の服装はバラバラだ。それぞれに乗るべき電車があって、帰る街がある。待っている人がいる人、いない人。明日の予定がある人、ない人。
 駅のホームにバラの花が一輪落ちていた。誰も気にも留めず通り過ぎて行く。電車が来てまた発車する。降りる人乗る人。バラはまだ踏まれていない。人混みが大方消えて、老夫婦だけが歩く。ホームの向こうにあるエレベーターを目指しているようだ。二人はバラの花を見て何か言う。また歩き出す。ようやくエレベーターに辿り着き改札へ向かうボタンを押す。

 
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