シゲブログ ~避役的放浪記~

大学でロシア語を学んでいる者です 文章を書くのを仕事にするのが目標です。夢は世界一周です

#165 企業説明会

◎令和4年 3月××日
 企業説明会だけのために東京まで。実は少し楽しみ。留学の予定が無くなりそうなのは悲しいけど、もう背に腹は変えられない。だって就活することにしたから。そう、私は就活をしている。自分が。あのシゲが。ちょっと信じられない。
 NPOインターンとか、フリーターすることとかも考えた。ロシアに留学することが難しいならカザフスタンに留学すればいいのではないかとも思った。でも、色々考えて、やっぱり就活することにした。3、4年前と違って時間がなくなっていた。今からの数年でいくらかお金を稼いだ方が、自分の中にある不安というのは少し軽減されるのではないかと思った。不安が故に何もできない日があったり、やる気が無い日があったり嫌だった。母親が老いていくのを見て、10年後の自分を想像して、ゾッとした。不安が故に無為な時間を過ごしてしまうこと、そういうのを少しずつ無くしたいと思った。だから、そう、私は就活をすることにする。これはもう宣言みたいなものだ。

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大量消費と大量生産の社会

 火曜日、親と一緒にコストコに行った。コストコでたくさんお金を使った。700g 1800円のコーヒーを私はカートに入れた。申し訳なくなった。そして、勿体無いと思った。自分の時間も、能力も、無駄遣いをしているように思った。ジャケットを着てシャツを着た。そして駅前のカメラ屋で写真を撮ってもらった。でもよくよく調べたら就活用の証明写真に必要なのはネクタイとスーツで、ジャケットではなかった。考えたらわかる話だった。カメラ屋に交渉して撮り直しをしてもらう。家まで帰ってネクタイを結ぶ。家をまた出る。ネクタイを結ぶのが久しぶりすぎて、とても時間がかかった。2017年の暮れ以降、ネクタイを一回もつけたことがない。入学後に所属していたサークルは、良くも悪くも、大人になる手助けをしてくれるような場所だったのに、私はそれを飛び出して「大人」の世界を拒否してしまった。その選択を否定するつもりはないけれど、でも今の私ならもう少し上手くやっただろうなと思う。
 カメラマンの人は嫌な顔一つせずに撮り直してくれた。ES(エントリーシート)に貼るサイズの写真はわからなかったが、適当に選んだ。ブルーライトをカットするメガネだから、首の角度によって、私のメガネは青く光る。プレーンノットが上手くできなくて、ウィンザーノットでタイを結ぶ。写真の中にある私の顔はなんとなく不自然であるように思える。いつもの自撮りとはやはり違う。口角の上がり方が不自然。目が細い。なんだか下膨れの輪郭。セルフィーで撮る私の顔の方がうんと好きだ。
 革靴もセカンドハンドだけど買う。リーガルの高いやつ。定価の1/3程度で帰るとは言え、高い気がする。でもこういうのを一つ一つ揃えた方が自信にもなる。そういう性格なのだから買った方がいい。時計も迷っているけれど、当分はなくてもいいかなと思っている。汗っかきなので汗疹になると嫌だ。

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鍛冶橋駐車場で高速バスを降りてすぐに見る景色、東京
 ESを書く。1日に書くESはできれば2つ。1つは真剣なやつ。2つ目は練習用で、気楽に書く。火曜日には初めてのESをうんうんと唸りながら書いた。地方のとあるテレビ局。雑誌を扱う出版社。書く作業は楽しかった。特にテレビ番組や雑誌記事の企画を考えるのに時間を使った。限りある文字数でいかにして私を伝えるのか。面白そうなのはどんな企画だろうか。大きい企業ほど向いていないと思っている。人数が多いのはしんどい。部活でもサークルでもそうなのだけど、私は時々、疑心暗鬼に陥ってしまうことがあって、そういう時周りの人を誰も信じられなくなる。誰もが自分の悪口、陰口を言っているように思い込んでしまうのだ。どうしてなのかわからない。今度、心療内科の先生に聞いてみよう。
 今まで就活をしなかった理由は色々あるけれど、最大の理由は「卒業単位も取り切ってないのに就活まですると体が持たなくなる」からだったと思う。あと、普通に就活をやりたくなかった。自分の頑張りや魅力は就活では伝わらないだろうと思っていた。
 16歳からこっち、胸を張って生きることが出来なくなっている。自身無い態度なんて多分就活シーンではダメだろう。面接やESで評価され、切り捨てられ、落第のハンコを押されるのが嫌だった。そういうことが積み重ねられたら、自分は耐えきれない気がした。
 

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夜の国道2号線
「本当に自分は就活をしなくてはいけないのかもしれない」はっきり感じたのは3月8日。東広島に向かって走る夜明けの国道2号線だった。友達の住む大学のある町に行こうとしていた。「特殊作戦」とロシア政府が呼ぶ忌々しい戦争さえなければ、秋からロシアの大学院にいるはずだった。でも情勢を見るに難しそうだった。悪化することはあっても好転することはなさそうだった。加古川、姫路、たつの、相生、走るにつれて、どんどん落ち込んだ。移動している時というのはどうしてか頭がよく働く。「ああ、本当に自分は就活をしなくてはならないんだ」そう思ったのが上旬の終わり。でもそこからちゃんと動き出すまでに時間がかかってしまった。出版社も新聞社も、大手の会社はエントリーがもう締め切られてしまった。
 
 リクナビマイナビに登録する。行きたい企業を探す。ESを書く。出す。説明会を予約する。IDとパスワードがいろんなページで要求されて頭がおかしくなりそうになる。この会社も気になる。あの会社も気になる。と思ったらこの会社はエントリーが締め切られている。惜しいと思う。とっても良い選択肢であったような気がする。束の間、その会社に入ったらあり得たかも知れない将来を思い浮かべてうっとりする。くそだ。全てが××。あちらからこちらへ、このサイトから次のサイトへ。同時に開かれているタブの数がえげつない量になる。60とか70とかそんなん。イライラする。不安になる。エントリー漏れはないか。ちゃんとESは出せているのか。
 

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早朝の東京
 不安不安不安。確認確認確認。不安不安不安。確認確認確認。JR尼崎駅前の公営住宅に住んでいた頃を思い出す。鍵っ子の私は、一人で鍵を閉める。12階からエレベーターを使って降りる。地上を歩き出す。パンジーやチューリップが咲く広い花壇がある。信号まで歩く。鍵を閉めたか不安になる。不安で歩けなくなる。引き返す。エレベーターのボタンを連打する。「早く来い。早く降りて来い」と叫ぶ。ゆっくりと降りてきた鉄製の箱に飛び乗り、12を押す。ドアが開いて、降りる。3番目の部屋まで走る。ドアの施錠を確認する。もちろんドアは閉まっている。心配は杞憂に終わって私は学校に遅刻する。
 
 地方新聞が面白そうだと思って見ている。出来たら東の方に就職をしたい。東京か東北、あるは北陸。とはいっても、文章にまつわる仕事ならどこでもいい。ただ関西からは出たい。ちょっと飽きた。同じところをぐるぐる何周もしている人生は嫌だ。大学在学中、大阪や神戸を歩き回ったけれど、いつも同じところにしか行かなかった。
 見た感じ、地方新聞は紙でESを出さないといけないところが多い。エントリーできる会社がもうすでに限られているから、もしかしたら、エントリー時期が遅い会社ほど紙媒体なのかも知れない。今日の説明会は東北の新聞社だったのだけれど、郵送でESを提出しなくてはならないということだった。面倒だ。でもその分本気度が試される。読んでくれる人が確かにいるという安心感もある。昔に比べれば平等だと思う。ネットで情報が集められて、どこにでもESを出すことができる。リクナビマイナビもシステマチックすぎて嫌になるけれど、そのシステムによって救われる人もいるはずだと思う。日常の、そして住む地域の便利さを当然だと思っては、目が曇ってしまう。
 

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どこかのサービスエリア
 土曜日の夜高速バスに乗りこんで日曜に東京。ネカフェで少し寝てスーツに着替える。結局説明会に着いたのはいつものようにギリギリだった。しかも建物の入り口がわからなくて、部屋に入ったのは開始予定時刻きっかりだった。私と同じように迷子になっている人が数人いて助かった。地方新聞とは言え、有名な会社だから説明会に来る人の数もたくさんいると思っていたのに、5人しか居なくて拍子抜けした。新聞社の歴史、部署、営業、SNSやオンラインでの新聞の発信。震災時の報道について、震災後、地域の住民に対して防災や減災を呼びかけるようになったことについて。社員さんは2人いた。東京出身の人と宮城県出身の人。2人の雰囲気のおかげでリラックスして説明を聞くことができた。企業説明会も就活も、色々なことを今まで食わず嫌いしていたけれど、想像と実際とはやはり違うなと思った。私に必要なのは対話と、世界を知ることだ。不安の種は尽きないけれど。今日は東京に来て説明会を受けてよかったなと思った。

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説明会近くでは桜が咲いていた
 
 
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