シゲブログ ~避役的放浪記~

大学でロシア語を学んでいる者です 文章を書くのを仕事にするのが目標です。夢は世界一周です

#135 青春18きっぷの旅(2)

 どうしてこうなるかなあって思った。旅先でこんなことになるなんて。この一年間ほとんど公共交通機関を使ってないのに。「常磐線は未明の事故のために途中の区間では運転が再開していません」なんてちょっとアンラッキーすぎる。

 上野から乗って水戸に行きたい私は土浦駅というところで降りる。振り替え輸送のバスに向かう。改札を出ると大きな通路が左右に伸びていて、よくある駅だと思った。バスまでの道を示すためにたくさんの人が立っていて、おかげで間違えずに進めた。普段はツアー客が利用するであろう観光バスだった。バックパックの私は窮屈な格好で席までたどり着いた。

 

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 そもそもの始動が遅かった。6時には、遅くとも7時までにはネカフェから出るべきだった。せっかく上野のネカフェに泊まって、常磐線を一直線に北東に、水戸まで行く予定だったのに。夜は高校の頃の友達と遊ぶ予定で、夕方には都内に帰りたかった。事故とそのために電車が止まっていることを知って上野駅で少し迷った。けれども私は水戸芸術館の展示をどうしても見たくて、悩んだ末に行くことにした。その賭けは結果的に失敗に終わり、線路内に突っ込んでプリウスを放置した「何者か」を心の中で呪い続けるはめになった。けが人が出なかったのは良かったけれど、対応に追われる駅員さんもいるし、こうして私が困っているし。

 

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 千葉とか茨城とかそこらへんの細かい違いは関西人の自分にとってなじみがない。常磐線の駅名を見ながら、柏や安孫子が千葉県の地名というのはわかる。あ、安孫子じゃなくて我孫子千葉市のどこかに祖母の兄弟が住んでいるとか、東京の板橋だったか練馬だったかに親戚がいるとか、そういうのはあるのだけど、でもやっぱりいまいちわからない。東京の、というか関東の地理はピンと来ない。

「今度水戸に行くんだけどおすすめの場所あったら教えて」ってつくば出身の友達に聞いたけど、その子は水戸のことはあんまり知らないと言っていた。スマホの地図アプリで関東地方を拡大して、そりゃそうだよなと思った。阪神間で育った私は、神戸や大阪のことはわかるけれど、新温泉町や岬町のことはわからない。つくば市水戸市も同じ茨城県だけど結構離れている。都内からつくばまでなら1時間ちょっとで行けるけれど、水戸は2時間近くかかる。

 

「東京」とか「関東」は実際に住んだわけじゃないから、本や映画の描写やラジオで聴いた話の方が自分にとってはなじみが深い。ファンタジー作家の上橋菜穂子我孫子に拠点を置いていたと思うし、森絵都の『永遠の出口』は千葉に住む女の子が主人公だ。南海キャンディーズの山ちゃんは千葉市で育っていて、「W成人式」という40歳の人を祝う式典に参加した話をTBSラジオでしていたし、茨城はピースの綾部の出身だったはずだ。多忙の中でおかしくなってしまった綾部が気がついたら徒歩で茨城の実家に向おうとしていた話をいつかのラジオで聞いたことがある。空気階段の鈴木もぐらも千葉県旭市出身で、団地の話や父親の話をよくラジオでしている。今日途中で通った牛久も、映画『下妻物語』に出てくる。稀勢の里の出身地でもある。それから入管もある。日本の後進性を象徴する場所。

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 昨日のネカフェも「よつばと!」を読んだりダゾーンでサッカーの試合を観たり忙しくて、まだ眠かった。電車の中で惰眠を貪るつもりが、バスの中で眠っていた。4駅分の距離だから、時間がどれだけかかっても1時間ほどだろうと高を括っていたが、2時間かかった。自分の住む地域にある整った交通網を実感させられた。

 土浦駅から羽鳥駅。バスの2時間はあっという間だった。快適でもあった。けれどまた電車に乗って水戸に行き、水戸から都内に戻る時も同じだけの時間をかけないといけないと考えると憂鬱だった。電車に乗る前の上野駅でそばを食べて、水戸駅に着くまで3時間以上かかった。そばの上にあったかき揚げが、今は胃の中でもたれていた。本来なら10時には着いているはずなんだけどなあ、なんて恨めしく思いながら水戸駅から芸術館まで歩く。本来なら偕楽園も見たかったし、駅前の納豆専門店にも行きたかった。モーニングが美味しいカフェも調べたんだけどなあ。水戸芸術館のタワーを目指して20分、やっと目的地に着いた。

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 水戸芸術館。「3.11とアーティスト:10年目の想像」の展示。私の目的は小森はるかさんと瀬尾夏美さんの展示だった。最近も瀬尾夏美さんの『あわいゆくころ』を読んだし、二人が監督した映画『二重のまち/交代地のうたを編む』も気になっている。

 チケットを買って展示に進んだ。私のバックパックは展示に向かう通路で預かってもらった。

スタッフの方に頂いた「3.11展覧会のしおり」にはこう書かれていた。

この展覧会で紹介するアーティストたちは、災害にあった人からお話を聞いたり、震災のあとのかわりゆく風景を見て、感じたこと、考えたことを作品にしています。作品を見ると、10年前に起きたできごとから今までを知り、想像することができます。作品は、時間や場所をこえて、思いやできごとを未来に伝えていきます。作品を見て考えることは、未来へのリレーに参加することです。

 

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 譜面台のようになった台の上に紙が置かれている。それらが連なって順路ができている。瀬尾夏美さんがTwitterに投稿した文章を〈歩行録〉としてまとめなおしたものをたどって、10年前の311日から2021年に至る年月を感じることができるようになっていた。

 その次の部屋は高峰格さんという人の映像作品。スーパーや魚屋で記録された、食品の放射能をめぐる会話が演技によって再現されたものだった。次の部屋には加茂昴さんが描いた福島県双葉郡の風景。その次の部屋には差別をめぐる藤井光さんの映像作品。アイオワ州で昔行われた有名な授業を踏襲した作品で、子供たちが差別について考える様が映っていた。その次は佐竹真紀子さんの絵が壁にかかっていた。私が行ったことのある荒浜の絵だった。木の上に色を重ね、彫刻刀で削った作品は、重なった年月や出来事を暗示しているように思った。再び小森はるかさんと瀬尾夏美さんの展示で、今度は大きな部屋だった。映画『二重のまち/交代地のうたを編む』ができるまでの過程がわかるようになっていた。その次の細長い通路にはニシコさんの展示があって、元々津波で流され、浜辺に落ちていたものが修理されて並べられていた。一つ一つのものに物語があるのは明らかで、全部の手触りを確かめたり修復の跡からアーティストの思いを探したかったけれど、その通路に至るまでにずいぶんと疲れてしまってこの辺りからしっかり見られなくなっていた。次の部屋のDon't Follow the Windの展示も思うことはたくさんあったのだけど頭痛が酷くなって長居できなかった。放射能で故郷を追われ、心から笑えなくなったと語る人の映像は、つらくて見てられなかった。 

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 展示の終わりに来た人がメッセージを書いて壁に貼るコーナーがあった。しっかり言葉を選んでメッセージを書いた。美術館の椅子は居心地がよくて眠り込んでしまいそうだった。眠ってしまおうかと考えて、東京にいつ帰れるかわからない状況にあることを思い出した。5時には東京に着きたかったけれど無理そうだった。

 また同じ道のりを帰った。今度のバスは市バスで、行きの観光バスとは大違いだった。茨城空港から家に帰るであろう女の子二人が終わりつつある旅行について話していた。

 なぜか帰りの方が時間がかかって、友人らが待つ押上についた頃には午後8時を回っていた。




水戸芸術館の展示は
2021年の59日までです

www.arttowermito.or.jp

 

映画『二重のまち/交代地のうたを編む』

www.kotaichi.com

 

 


 

【今日の音楽】

youtu.be

 

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