シゲブログ ~避役的放浪記~

大学でロシア語を学んでいました。関西、箱根を経て、今は北ドイツで働いています。B2レベルのドイツ語に達するのが目標です

#15 残りの回数

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 浪人の時の友達に会った。一緒に焼肉に行った。

 

 予備校って大学に入るために勉強する場所だから、よくも悪くも、勉強の話題が多くて、勉強ができるやつが一番偉かったりする。みんな志望校になんとか入ろうと頑張るし、勉強だけをしていたらよいというある意味異常な空間だった。何人か友達ができたのだけど、自分も含めて自身を抑圧して勉強している人が多かった。つらい1年間だった。

 大学に入ってからも何人かとは連絡を取っていた。しかし頻繁にしていた連絡も、次第に次第に途絶えて行った。それでも時々やりとりをしている友達もいて、今回一緒にごはんを食べた彼もその一人である。たまたま同じ予備校から同じ大学に入ったおかげで彼との関係は続いた。偶然続いた縁だけど、お互いに嫌いあっていたら続いてなかった。そういう人は大事にしないといけない人だと思う。

 

 焼肉を食べながら予備校時代の話をして、部活のことや(彼は体育会系の部活に入っている)家族のことを少し話した。最近のお笑いの話をして(彼も僕もお笑いが好きだ)そして話がなくなった最後になってお互いの恋愛の話をした。そうしてまた会おうといって大学の入り口で別れた。彼は駐輪場の前の坂を上り、私は自転車を押して下って行ったのだった。

 

 別れてから思った。死ぬまでに彼と会うのはあと何回だろうと。

 大学をこのまま進んで、彼が卒業するまでに2年しかない。順調に行けば、2年で離れていってしまう。おそらく彼は院に進学することはないだろう。運動部を続けたことを生かして就活するだろう。そして社会人になれば、そうそう簡単には会えるものではなくなるだろう。

 とすると、これから彼に会うことはもう数えられるほどでしかないのだ。不思議なことだ。3年前にはいつでも喋ることができたのに。もう毎日彼に会うわけにもいかない。お互い、勉強に部活にバイトに忙しいのだ。あと、案外話が続かなかったりもする。べたべたして気まずくなってしまうのも嫌である。

 別に毎週ごはんに行かなくてもいいのだと思う。事あるごとにお互いの近況を送りあえるような関係でいいのだと思う。

 

 死ぬまでになにができるだろう? 最近こんなことばかりを考えてしまう。大学前にある行きつけのカフェに入るのはあと何回だろうかとか、「よっ友」の彼と大学構内であいさつを交わす残りの回数とか、そんなことばかり考えてしまう。考えたからといって何かが起こるわけでもない。ただ、毎日の当たり前もいつかは当たり前でなくなる。みんな知っていることだ。実際にサークルをやめた以後、何人かは全く話さなくなった。当然のように話していた友達と当然のように話さなくなってから、私はよく、残りの回数を考えるようになった。本当に大事なものを探さないといけないと思うようになった。

 

 残りの人生は長いようで短い。

 小学校に入学したとき、6年間という時間はあまりに長くて、ほとんど永遠であるように思えた。永遠に小学校にいられるのだと思っていた。実際に、1年生の1学期はとても長くて、たくさんの出来事があった。知らないこと、新しいものばかり溢れていたから、毎日がとても長かった。私は、小学校に入って初めて「時間」を意識したのだと思う。

 次第に次第に、時間は私の体を速く流れるようになった。学習塾に通い始めた時、電車に乗って中学校に通うようになった時、バイトを始めた時、大人へのステップを上がるごとにどんどん1日は短くなった。今ではもうスマホをいじっているだけで休日が終わる。学校から帰ってきてテレビを見ていただけなのにふと見ると時計は明日が来たことを無言で告げていたりする。

 

 そう考えると死ぬまでにできることは案外に少ない。小学校のころは図書室の本は卒業までに全部読めると思っていた。中学生になっても、近くのTSUTAYAの映画は死ぬまでに全部観れるものだと思っていた。そんなことはもうあり得ない。せいぜい三浦しをんの作品を全部読み切るぐらいしかできないだろう。それも彼女の作家生命が尽きる前に私が死ななければの話だ。ちなみに林芙美子はいっぱい書きすぎているから多分読み切れないと思う。絶版とかもあるし。

 いやいやそれだけじゃないだろう。他にもやりたいことがたくさんある。一生をずっと本を読んで過ごすわけがない。しかし挙げるときりがない。———旅がしたい、ロシア語をしゃべれるようになりたい、髪の毛を染めたい、ピアスを開けたい、結婚をしたい、田舎に住みたい、小説を一本書きあげてみたい———やりたいことがたくさんある。焦らずに一つ一つやっていこうと思う。